多様な表現で負を正に カタストロフと美術のちから展  東京・森美術館

 カタストロフ(大惨事)を主題にした国内外の現代美術家40組の作品を紹介する「カタストロフと美術のちから展」が、東京・六本木の森美術館で開催中だ。

 客観的な視点から報道されるニュースと異なり、アーティスト自身の個人的な悲しみや喪失感を表現したり、社会の矛盾や隠された問題を目に見える形にする意図があったりと、災禍や惨事が、美術を通してより身近な出来事に引き寄せられている。

 会場入り口では破壊をテーマにしたトーマス・ヒルシュホーンの巨大なインスタレーション「崩落」が、鑑賞者を迎える。ビルが崩れ落ちた悲惨な様子は、震災で津波に流されたり、戦地で爆撃されたりした建物を連想させる。

 武田慎平は、目に見えない放射能汚染の痕跡を写真で捉えた。原発事故後、放射能で汚染された土壌によってフィルムを感光させたものだ。一見すると、宇宙のように美しく見えるのが皮肉だ。

 破壊から創造へと美術の力を示すものでは、池田学の細密なペン画「誕生」(11月28日から展示)。打ちつける波風に負けじと咲き誇る桜の大木が、力強く描かれている。東日本大震災をきっかけに構想2年、制作に3年以上をかけた大作で、大災害に直面しても希望を失わずに生きていく意図が込められている。

 参加型の作品もあり、オノ・ヨーコのインスタレーション「色を加えるペインティング(難民船)」では、鑑賞者がクレヨンで壁や床、難民船をイメージした船などに平和への願いを書き込むことができる。

 多様な表現方法によって負を正の力に転じ、記憶の風化にも挑む美術の可能性を感じることができる。

 2019年1月20日まで。一般1800円ほか。問い合わせはハローダイヤル03(5777)8600。

オノ・ヨーコのインスタレーションに参加する人々=森美術館

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