“バルサ化”は実現可能なのか?新生ヴィッセル神戸の徹底解剖その2

世界有数の戦術家リージョが指揮官に就任したヴィッセル神戸の戦術やシステムを徹底解剖していくコラムの第2弾。

前回のコラムでは守備について詳しく説明したが、今回は下図の4局面のうち攻撃(ビルドアップ&崩し)とネガティブトランジション(攻撃→守備の切り替え)について解説していきたい。

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ビルドアップ

まずはビルドアップから開始しよう。

基本的には2人のセンターバックが広がり、藤田か伊野波と三角形をつくるようにしている。

さらにはゴールキーパーの前川が高いキック精度を備えているので、状況によっては彼も組み立てに参加して数的優位を作り出すことができる。アンカーの位置にいる藤田または伊野波は、三角形の頂点になるだけではなくセンターバックの間に降りてきてビルドアップを行うこともある。

もしも2人が封じられたらセンターバックが持ち上がるようになっている。ショートパスで丁寧に後ろからつなぐことが大前提だが、前川の高精度ロングキックで一気に前線に送ることもある。また、試合終盤は古橋、イニエスタ、ポドルスキを中心とした縦に速い攻撃を駆使する。

そして、ビルドアップの最大の特徴はサイドバックの位置ではないだろうか。タッチライン際まで張り出し、高い位置を保つ。

イニエスタら他のプレイヤーが大外にいるときは、サイドバックの選手は斜め後ろでサポート役に徹する。幅を取ることによって相手の守備ブロックを広げ、横圧縮を阻害する。

リージョ監督が「幅をうまく使いたい」とコメントしていたが、まさにその言葉通りのシステムだ。

崩し

相手の陣内ではイニエスタとポドルスキを中心にサイドを崩し、そのままゴールに向かうか、大外でフリーになっているサイドバックの選手に渡してクロスを上げるかの2種類の攻撃が大まかな崩し方だ。

相手からすると中央にいるイニエスタとポドルスキを警戒しないわけには当然いかないので、大外のサイドバックはフリーなことが多い。リージョ監督も「狭いスペースでパスを回して大外の選手をフリーにすること」を基本としているように、ピッチ中央で人数をかけてパスを回し、タッチライン際を駆け上がるサイドバックにパスを出す場面がサガン鳥栖戦では何度か見られた。

さらに、名古屋戦と鳥栖戦で見られたのが、ボールを捌くことに長けている藤田を前線に押し上げて伊野波が後ろでカウンター対策用のポジションを取っているシーンだ。

藤田は密集地帯でも次々にボールを供給し続け潤滑油のような役割をこなすことができ、相手の守備陣をこじ開けるためにこれから必要不可欠な存在になるかもしれない。

それともう1つ、三田のオフ・ザ・ボール(ボールを持っていないとき)の動きが地味ではあるが効いている。イニエスタとポジションのパス交換を防ごうと間に立っている相手選手がいるとき、三田はその選手のそばを通りつつ2人の間を駆け抜けてイニエスタ-ポドルスキ間をクリーンな状態にする。

この動きは1試合に2~3回ほど見られるのでぜひ注目してほしい。

ネガティブトランジション(攻撃→守備の切り替え)

基本的にはボールを失った直後は即時奪回を目指しており、前のスペースを埋めつつボールホルダーに1番近い選手が奪いに行って周りの選手はパスコースを防ぐもしくは限定することが多い。

前線の古橋、イニエスタ、ポドルスキより後ろでボールを失った時にはリトリートして少し撤退することもある。また、前述のように伊野波が攻撃陣の後ろでネガティブトランジション用のポジションを取っているので、彼がそのままカウンターの芽を摘む機会も少なくない。

攻撃→ボールを失う→即時奪回→攻撃のサイクルを循環させるためにも守備力の高い伊野波は欠かせないピースなのだ。

まとめ

攻撃の形に関しては、今シーズンのうちはさほど手が加えられることは無いのかもしれない。中央でのオーバーロード(密集)によるボール回しとサイドバックのアイソレーション(孤立)は特にだ。

ボールを保持するタイプのチームにとってフリーマンを作ることは非常に重要であり、攻撃にバリエーションを加えることができる。

心配なのは、イニエスタやポドルスキら中心選手が負傷などにより離脱した時の戦い方だ。そういった時のシステムや人選をリージョ監督は果たしてどうやりくりするのかに注目が集まる。

また、今シーズンは優勝争いに絡めなかったものの、来季はさらに戦術が深く落とし込まれているはずなのでもっと上の順位も期待できる。果たして”バルサ化”は上手く行くのか。今後もヴィッセル神戸は要チェックだ。

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