フランス最高峰文学賞受賞 レイラ・スリマニさん講演 「善悪の判断を超え、心理に迫る文学」

女性解放や男女平等について語るスリマニさん=長崎市内

 サスペンス小説「ヌヌ 完璧なベビーシッター」で2016年にフランス最高峰の文学賞「ゴンクール賞」を受賞したモロッコ生まれでフランス在住の作家、レイラ・スリマニさん(37)が26日、長崎県長崎市横尾3丁目の長崎外国語大で受賞作について講演。善悪の判断を超え、人間心理に迫ることが文学の果たす役割の一つであると指摘した。

 講演会は、日仏交流160周年を記念し、在日フランス大使館の関連機関「アンスティチュ・フランセ九州」と長崎日仏協会、長崎外国語大が企画。在日フランス大使館が国内各地で展開し、長崎県初開催の「読書の秋」事業としても位置付けた。学生や市民ら約250人が聴講した。

 受賞作の粗筋は次の通り。パリに住む共働き夫婦が2人の幼子のため、現地の子ども用語で「ヌヌ」と称される女性のベビーシッターを雇った。彼女は家事や子守を完璧にこなし家族にとって不可欠となったが、次第に疎外感を強め“心の闇”が肥大化。幼子2人を殺し、自身も自殺を図る-。

 スリマニさんは司会者や観客の質問に答える形で受賞作について語った。フランスでヌヌは移民女性が多く、社会的評価や賃金は高くないとして「共働き夫婦にはありがたい存在だが、半面『女性による女性の搾取』との指摘もある」と明かした。「自分がヌヌだったらどうかと、ずっと前から考えていた」と執筆に至った経緯を振り返った。

 叙情的な表現を抑え「ドライな文体を選んだ」と語ったスリマニさん。観客から「最初は殺人をしたヌヌが悪いと思ったが、読み進めると、何が善で何が悪かの問題に直面した」との感想が寄せられたのに対し「文学は善悪の判断をやめられる唯一の場所。人がモンスターのようになるまでにはストーリーがあることを示すのも文学の役割だ」と語った。

 ■インタビュー/男女共に幸せな「男女平等」を

 「孤独」や「理解し合うことの難しさ」を追求したいテーマに挙げているレイラ・スリマニさん。1作目の小説「鬼の庭で」(2014年)は性依存症の女性、3作目のエッセー「セックスと噓(うそ)」(2017年)はモロッコの性事情を扱うなど、性問題や「女性解放」への関心も高い。今回初めて訪れた長崎のまちの印象などと合わせて考えを聞いた。

 -性被害を告発する米国発の「#MeToo」(「私も」の意)運動など、男性中心社会からの転換を目指す動きが近年活発だ。

 (セクハラなどを)黙って受け入れるのではなく発言することが大切だ。(「#MeToo」運動は)革命的だと思う。ただまだ始まったばかり。今後も続いてほしい。その際、女性は男性と戦うのではなく互いに考え、女性同士でも高め合う必要がある。男女共に幸せな「男女平等」であるべきだ。

 -日本では、社会における「女性活躍推進」もうたわれている。どう思うか。

 日本でフェミニスト運動をしている女性と話して思ったのは、動きがまだ小さく、彼女たちは満足していないということだ。

 -フランスのマクロン大統領が今月、不法滞在の移民を国外追放したいと発言したのに対し、あなたは批判の声明文を公表した。「フランコフォニー担当大統領個人代表」に任命されているのに、大統領を批判するのは大変だったのでは。

 移民が証明書を持たないという理由で、人として尊重されないのはおかしいから、ちゃんと意見を言った。大統領は理解力があるので分かってくれたと思う。

 -長崎の印象。長崎原爆資料館を見学した感想は。

 長崎のまちは外国との関係など歴史が豊かで感動した。原爆資料館の展示は見るのがつらかった。

 -フランスは核保有国だ。核兵器は必要か。

 どんな武器もいらない。必要なのは書くためのペンだ。フランスの核保有にも納得していない。

 【略歴】レイラ・スリマニ
 モロッコで生まれ、17歳でパリへ移住。哲学や文学を学び、ジャーナリストとして政治・社会問題を取材した経験を持つ。2016年に発表した2作目の小説「ヌヌ 完璧なベビーシッター」でゴンクール賞を受賞。2017年11月にはフランスのマクロン大統領からフランス語の普及を担う「フランコフォニー担当大統領個人代表」に任命された。米誌「バニティ・フェア」が11月発表した今年の「世界で最も影響力のあるフランス人50人」で第2位に選出された。

「ヌヌ 完璧なベビーシッター」について語るレイラ・スリマニさん(壇上の左から2人目)=長崎市、長崎外国語大

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