優秀なリリーフと主軸を生かしきれず…データで今季を振り返る【DeNA編】

DeNAの得点と失点の移動平均グラフ

交流戦での負け越しを機に先発投手陣が崩壊

 2017年に19年ぶりの日本シリーズ出場を果たし、今季も4月上旬に8連勝するなどスタートダッシュに成功。勢いそのまま、いよいよリーグ制覇もあるかと思われたDeNA。しかし、終わってみれば、優勝争いどころかクライマックスシリーズ進出争いでも苦戦する展開になりました。

 そんなベイスターズのペナントレースにおける得点と失点の移動平均を使って、チームがどの時期にどのような波に乗れたかを検証してみます。移動平均とは大きく変動する時系列データの大まかな傾向を読み取るための統計指標です。

 グラフでは9試合ごとの得点と失点の移動平均の推移を折れ線で示し、

得点>失点の期間はレッドゾーン,
失点>得点の期間はブルーゾーン

 として表しています。

 開幕2カードこそ負け越したものの、その後17年ぶりの8連勝で首位に立つなど投打の噛み合わせの良さを見せた序盤でした。特に東克樹、京山将也、バリオスなどの新戦力を中心に投手陣が活躍、4月防御率3.18はもちろんリーグトップ。援護率2.98と、打線のエンジンが温まっていない中で星を重ねていきます。

 しかし、交流戦を境に不安定な状況に陥ります。交流戦ではパ・リーグ相手に5連敗を含む10敗を喫し、大きく負け越し。そして交流戦後は失点の移動平均が5点を上回る推移となるなど、投手陣が波に乗り切れてない状況に陥ります。

 交流戦終了時以前では、1試合しかなかった2桁失点の試合を、交流戦後は10試合も記録してしまいます。そのため、グラフでは大きなブルーゾーンが続いている形となっていますが、一方で勝つときは僅差での勝利が多いため、星勘定ではそこまで大きな借金を背負うことなくシーズンは進んでいきます。

 シーズンを通じてみると、先発投手陣が早々と降板するシーンが目立ちました。先発投手が6回以上を投げ、自責点3以内に抑えるクオリティスタート(QS)率31.5%、先発の平均投球回数5.28はともに12球団最下位。どちらの記録も、2005年以降でワースト3位に相当します。

 そして、投手陣の苦労の裏には「守備陣の援護のなさ」がありました。グラウンド上に飛んできた打球のうち野手がアウトにした割合を示すDERは67.5%でセ・リーグワースト2位です。守備貢献でリーグ平均を超えているのは桑原将志くらいで、あとはマイナス評価。FAで阪神から移籍し、チームの守備力強化に期待がかけられていた大和の加入をもってしても、改善は見られませんでした。

中軸の破壊力が得点につながらず、ソトが奮闘し本塁打王獲得も…

 打撃陣では筒香、ロペス、宮崎の主軸が20本塁打、OPS(出塁率+長打率)0.8以上を記録するなど、安定感は見せますが、その前後の打者とのコントラストが激しすぎて得点力向上に苦労しました。

 特に開幕から1番打者として期待されていた桑原将志が不調で、5試合目にしてスタメン落ち。代わりに1番を任されたドラフト2位ルーキー神里和毅も4月の出塁率.284、OPS.610と期待に応えられず、シーズン序盤から得点力不足に悩まされることになります。

 下位打線も梶谷隆幸やオリックスから移籍の伊藤光などを配置するなど試行錯誤しますが、打線の底上げがうまくいかず、ついには8月3日・広島戦の延長11回に投手ウィーランドが代打として登場するシーンも。そんな中、救世主として現れたのが前年テスト球団で加入したプエルトリコ出身のソトでした。

 5月6日に2番打者としてスタメンに名を連ねると、18試合で打率.354、本塁打4、OPS.930と主軸の前でチャンスをお膳立てする打撃を見せ、チームに貢献します。起用当初は24打席連続ノーヒットを記録したり、6月13日には発熱により登録抹消するなど好不調の波が激しかったのですが、復帰後は本塁打を量産。9月24日に34号を放った時点では、規定打席に到達していませんでした。

 そして球団新記録となるシーズン41本塁打でセ・リーグの本塁打王を獲得、本塁打率(打数/本塁打)10.15は両リーグ1位で、過去10年でみても、セ・リーグでは2013年バレンティンの7.32についで2位の記録です。

◯本塁打率ランキング(2009~2018、シーズン10本塁打以上)
1位バレンティン7.32(2013)
2位山川穂高9.93(2016)
3位ソト10.15(2018)
4位中村剛也10.44(2009)

 球団で4人がシーズン20発以上を記録したのは、1977年の田代富雄、松原誠、シピン、高木由一が記録して以来41年ぶりのことです。

 しかし、その中軸の得点力を持ってしても最後までチーム全体の得点力増強には至らず、3位巨人と1.5ゲーム差の4位。クライマックスシリーズ進出には至りませんでした。

DeNAの各ポジションごとの得点力グラフ

筒香&宮崎以外の野手は平均以下、なぜかホームで不安定な守護神・山崎康

 次に、DeNAの各ポジションの得点力が両リーグ平均に比べてどれだけ優れているか(もしくは劣っているか)をグラフで示して見ました。そして、その弱点をドラフトでどのように補って見たのかを検証してみます。

 グラフは、野手はポジションごとのwRAA(平均的な打者が同じ打席数立った場合に比べて増やした得点を示す指標)、投手はRSAA(特定の投手が登板時に平均的な投手に比べてどの程度失点を防いでいるかを示す指標)を表しており、赤ならプラスで平均より高く、青ならマイナスで平均より低いことになります。

 レフト筒香、サード宮崎のプラスはありますが、他のポジションの得点力が平均以下で、特に捕手とショートの落ち込みが目立ちます。セカンドの得点力増強のためソトをセカンドに配置するなどの工夫も見せていました。

 イニングを稼げなかった先発投手陣はマイナス評価ですが、救援投手はプラス評価です。連投させることを極力避け、計画的な運用が功を奏している結果と言えそうです。またクローザーの山崎康晃は入団から4年連続で20セーブ以上をマーク、37セーブでセ・リーグ最多セーブ投手となりました。ツーシームでの空振り率は20%以上とその切れ味は健在で、被打率.197、WHIP1.03、奪三振率10.07と高水準の指標を示しています。

 ただなぜか、本拠地以外での防御率は0.32であるにも関わらず、本拠地横浜スタジアムでの防御率は5.08。特にセ・リーグの相手本拠地では防御率0.00なのです。理由は定かではありませんが、いずれにせよホームでの環境整備は一考の余地がありそうです。

ドラ1上茶谷にイニングが稼げる先発として期待、2位の伊藤で内野も補強

 ベイスターズはドラフトで1位に先発投手、2位に内野手と、現在弱点となっているポジションを即戦力と期待できる選手で補強するような指名を行いました。内野手として期待した報徳学園の小園海斗はくじで外しましたが、東都大学リーグ・東洋大の上茶谷大河を1位指名。イニングが稼げる先発投手としての期待がかかります。

 3年秋のシーズンまでシーズン未勝利でしたが、4年生で1部に昇格後、5試合で完投、4試合で8イニング登板などチームの1番手先発投手として活躍。最高速度152キロをマーク、奪三振率9.65、四死球率2.14、K/BB4.45、FIP1.81と抜群の安定感を示しており、ベイスターズ投手陣に不足していた先発右腕、来季からの即戦力として大きな期待がかかります。

 また2位指名の東都大学リーグ・立正大の伊藤裕季也はリーグ8本塁打と強打が持ち味。1位指名の上茶谷や、ヤクルト1位指名の國學院大・清水昇といったエース級からも本塁打を放っています。3年生まで一塁手でしたが、4年の春から二塁手としてプレー。現在弱点となっているベイスターズのセカンドの攻撃力の補強を期待されての指名で、背番号4はその期待の表れでしょう。甘いマスクは、若手イケメン選手で女性集客を狙うベイスターズの営業方針にもマッチしています。

 横浜スタジアムのライトスタンド増築に注目が集まるベイスターズですが、ファームの練習施設の強化にも着手。来年夏には横須賀市に「DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA」が供用開始予定で、若手選手の投打走攻守の戦力底上げを担う拠点となります。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
千葉ロッテマリーンズ「データで楽しむ野球観戦」イベント開催中

© 株式会社Creative2