パ全球団に負け越し、三振減少も長打力不足…データで今季を振り返る【ロッテ編】

ロッテ・井口監督【写真:荒川祐史】

井口体制の1年目も苦戦、主力がボール球に手を出さない確率は大きく改善も…

 井口資仁監督新体制でペナントレースに挑むも、球団ワーストの2年連続80敗以上、パ・リーグ5球団にすべて負け越しという屈辱を味わった千葉ロッテマリーンズ。今年も得点力不足の改善は見受けられなかったわけですが、そんなペナントレースにおける得点と失点の移動平均を使って、チームがどの時期にどのような状況だったのかを検証してみます。移動平均とは大きく変動する時系列データの大まかな傾向を読み取るための統計指標です。

 グラフでは9試合ごとの得点と失点の移動平均の推移を折れ線で示し、

得点>失点の期間はレッドゾーン,
失点>得点の期間はブルーゾーン

 として表しています。

ロッテの得点と失点の移動平均グラフ

 ホームランパークファクター0.88でパ・リーグで2番目にホームランの出にくいZOZOマリンスタジアムをフランチャイズにしているとはいえ、本塁打78はダントツの最下位(パークファクター0.64の札幌ドームを本拠地とする日本ハムの本塁打は140)。一縷の希望といえば井上晴哉が今季24本のホームランを放ったことでしょう。マリーンズの20本塁打超えは2016年のデスパイネ以来。井口監督は2013年の23本がロッテ移籍後最多ですので、井上は現監督を記録上超えたということになります。ただ2桁本塁打はこの井上のみ。長打率.355、ISO.108もリーグ最下位で、長打力不足はデータ上今年も解消されていません。

 ただ四球は312でリーグ3位、三振は12球団で最も少ない888です。これを裏付けるデータを紹介すると、ボール球に手を出さない確率(O-Swing%)やストライクゾーンに来た球に対する空振り率はリーグ最少を示しています。

ロッテ
O-Swing% 22.2% 空振り率 6.7%

西武
O-Swing% 24.1% 空振り率 9.0%

日本ハム
O-Swing% 24.5% 空振り率 8.4%

楽天
O-Swing% 27.5% 空振り率 7.6%

ソフトバンク
O-Swing% 27.6% 空振り率 8.4%

オリックス
O-Swing% 29.7% 空振り率 7.7%

(投手の打席は除く)

 この数値は昨年と比較すると大幅に減少しています。特に主軸を打つ打者のO-swing%はこの1年で大きく改善していることがわかります。

井上晴哉 2017年37.3%→2018年23.3%
中村奨吾 2017年34.7%→2018年25.5%
平沢大河 2017年29.6%→2018年17.4%
田村龍弘 2017年23.4%→2018年17.1%
鈴木大地 2017年22.3%→2018年19.8%

 中でもシーズン後半に1、2番打者として36試合先発出場した平沢は、規定打席未満ですが四球数は西武・源田壮亮、楽天・銀次、ロッテ・角中勝也に並ぶリーグ15位タイの48、打席における四球の割合を示すBB%は13.6%で西武・山川穂高の数値に匹敵するリーグ5位の高水準です。井口監督、そして今季打撃コーチに就任した金森栄治打撃コーチの指導の賜物と言えるでしょう。

満塁での打撃成績は極点に低迷、得点力不足の要因?

 なお、チーム死球数86は12球団ダントツ。中村奨吾のシーズン死球22は歴代5位タイの記録です。これも1984年、85年と2年連続で死球王となった金森スピリッツの産物なのでしょうか。残念ながらその金森コーチは今季オフにマリーンズを退団、楽天への移籍が決まっています。

 得点力不足の一つの要因になるのかは定かではありませんが、今季のマリーンズは満塁というチャンス時における打撃が振るわなかったというデータがあります。

西武
打率.331 出塁率.384 OPS.993

日本ハム
打率.336 出塁率.385 OPS.966

ソフトバンク
打率.342 出塁率.368 OPS.904

オリックス
打率.336 出塁率.336 OPS.888

楽天
打率.315 出塁率.340 OPS.818

ロッテ
打率.206 出塁率.232 OPS.537

 1チームだけ極端に低い数値であることがお分かりいただけるでしょう。イニングで満塁を迎える際のアウトカウントが2アウトである割合が57.3%と他チームに比べて高いため、相手投手へのプレッシャーになりにくいというのも影響しているのかもしれません。

 投手陣をみると、オールスター戦以前は防御率3.64でリーグ3位と健闘していたのですが、後半戦の防御率は4.57でリーグ最下位に沈みました。それがグラフの後半の大きな失点の山、そして後半戦の援護率3.64との相乗効果で染められたブルーゾーンとして反映されています。

 そんなマリーンズ投手陣の中で光ったのは、外国人投手として南海・スタンカ(1964)、巨人・マイコラス(2015)に並ぶ11連勝を記録したボルシンガー。クオリティスタート(QS)率65%、シーズン13勝2敗で大きな勝ち越しをチームにもたらし、勝率1位の個人タイトルも獲得した優良右腕は来季もマリーンズに残留が濃厚とのことで、明るい材料となりそうです。

長打力不足解消への狙いが垣間見えたドラフト戦略

 次に、千葉ロッテマリーンズの各ポジションの得点力が両リーグ平均に比べてどれだけ優れているか(もしくは劣っているか)をグラフで示してみました。そして、その弱点をドラフトでどのように補って見たのかを検証してみます。

ロッテの各ポジションごとの得点力グラフ

 グラフは、野手はポジションごとのwRAA、投手はRSAAを表しており、赤ならプラスで平均より高く、青ならマイナスで平均より低いことになります。

 ファースト・井上晴哉とセカンド・中村奨吾の健闘は光りますが、その他の攻撃陣はマイナス評価です。特に外野手の落ち込みは激しく、しかも外野手登録の選手の平均年齢は28.0歳はリーグ2位の高さ。1位の西武は28.1歳ですが、これは43歳の松井稼頭央の引き上げによるもので松井抜きでは平均26.7歳となりマリーンズが実質1位のようなもの。このマリーンズの「外野手高齢化問題」を解消すべく挑んだドラフトで1位に大阪桐蔭高校の藤原恭大を指名。3球団競合の末、井口監督が「交渉権獲得」のくじを引き当てました。

 藤原は選手層の厚い大阪桐蔭で4番打者を任され、甲子園通算で打率.318、5本塁打、OPS.980をマーク。50メートル5.7秒、一塁到達タイム4.0秒、遠投110メートルなど足や肩でも高水準の指標です。また4位で明桜高校の山口航輝を指名。ドラフトでのポジションは投手と紹介されましたが、肩を痛めた影響で近年登板はなく、マリーンズでは外野手としての登録となる見込みだそうです。打球の飛距離は130メートルをマークするなどこちらも長打が期待される逸材で、長打力不足の解消を狙うドラフト戦略が垣間見えました。

 投手では、2位に首都大学リーグ・日本体育大学の東妻勇輔、3位に東京六大学リーグ・早稲田大学の小島和哉を指名。東妻は2017年秋の首都大学リーグのMVP、小島は2018年秋の六大学リーグで3完封を含む5完投、27回連続無失点を記録するなど両投手とも大学野球では実績を残しています。東妻はリリーフとして、小島は先発左腕として来季からの活躍を期待されての指名となりました。

 1949年毎日オリオンズとして誕生してから来季で70年となるマリーンズ。大型補強の期待もありましたが、ここは今季ルーキーながら全試合に出場した25歳の藤岡裕大、そして17年ドラフト1位、19歳の安田尚憲といったプロスペクトの成長に期待をかけることになるでしょう。そのため来季はショートに藤岡、サードに安田が積極的に起用されることが想定されますが、そうなると平沢や鈴木大地といった面々がそのポジションを争うのか、それとも外野の一角を担うことになるのかということになります。それは外野手高齢化問題の解消にも効果的で、攻撃力の全体的な底上げが計れるものと期待します。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
千葉ロッテマリーンズ「データで楽しむ野球観戦」イベント開催中

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