中国奥地で売られた「少女A」の前に現れた救世主

中国の内モンゴル自治区で、人身売買の犠牲となった少女が、別の脱北女性に救出される出来事があった。

事情をする脱北者が今月23日にデイリーNKに明かしたところによると、中朝国境に面した北朝鮮の村に住んでいた少女Aさんは、ブローカーに騙され中国に連れて行かれた。中国人男性に売り飛ばされたAさんはかろうじて逃げ出したが、ブローカーに捕まり、別の男性に売られたがまた逃げ出した。ブローカーは、Aさんをより儲かる内モンゴルに売り飛ばそうとした。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、最近は北朝鮮との国境から300キロ以上離れた内モンゴルでも、北朝鮮女性を求める中国人男性が増加している。彼らは国境地域の「相場」の倍近い報酬を支払っているとされ、内モンゴルまで女性を連れて行こうとするブローカーが増えているという。

北朝鮮当局が国境統制を強化し、脱北する人が減ったことも影響して、「相場」はさらに上がっているが、取引の件数が減ったブローカーは1人でも多くの女性を売ろうと血眼になっている。

知人を通じてAさんの事情を伝え聞いた韓国在住の脱北女性Bさんは、資金を調達し、ブローカーに渡してAさんを引き取り、韓国に連れ帰ったという。

「同じ北朝鮮出身の女性が人身売買の犠牲になるのをとても見ていられなかった。彼女はまだ幼く気の毒だったので、ブローカーから引き取った。今この瞬間にも、人身売買の犠牲になっている北朝鮮女性が数多く存在する」(Bさん)

正確な統計は存在しないが、中国で人身売買の犠牲になっている北朝鮮女性は相当な数に上る。

前出の情報筋によると、ブローカーらの手口は「脱北を助けてやる」「儲かる仕事を紹介する」などと甘い言葉で女性をそそのかし、国境を超えて中国に着くとすぐに自由を奪い、売り飛ばすというものだ。年齢や容姿に応じて4万元から10万元(約65万円〜163万円)で売買されるという。

「北朝鮮女性はほとんどが中国人男性に売られることを覚悟して脱北する。自分が売られた先には北朝鮮女性が10人ほどいたが、すべて中国人男性に買われた人たちだ」 (人身売買の被害者だった脱北女性)

最近でも、20代中盤の女性が生活苦から抜け出そうと中国に出稼ぎに行ったが、ブローカーに「儲かる仕事がある」と騙され、中国人男性に売り飛ばされる出来事があった。

一方、被害女性同士がメッセンジャーアプリのWeChatで情報を共有し、苦境に陥った人がいれば力を合わせて助ける事例もあるという。

北朝鮮女性の中国における人身売買には、国連や国際人権団体から批判の声が上がっているが、根絶されないのには様々な理由がある。

まず、北朝鮮の経済難だ。国家の仕組みは計画経済時代から変わっていないのに、現実は市場経済化が進展している。国家からの配給で生活が成り立っていた過去とは異なり、生きていくには市場で商売するしかないが、そのための資金を用意するには、脱北して中国に出稼ぎに行くのが最も手っ取り早い。ブローカーはそんな女性たちをターゲットにしている。

次に北朝鮮当局の対応だ。当局は、続発する人身売買を、手をこまねいて見ているわけではない。人身売買に対しては処刑を含めた厳罰で対応しているが、人身売買そのものを禁止する法律は存在しないため、別の法律で処罰するしかない。例えば、2005年3月に咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)で、人身売買に加担し公開処刑された被告に適用されたのは、刑法290条(誘拐罪)、233条(非法国境出入罪)、246条(職権濫用罪)、104条(外国貨幣売買罪)だった。

そして中国側の事情もある。中国の農村部からは都市への人口流出が続き、取り残された貧困層の男性には結婚相手がいない。そのため、女性の人身売買が横行するのだ。また、子どもの人身売買も横行しており、中国政府は対応しきれていない。

さらに、中朝両国が脱北者に対して厳罰を課していることも影響している。中国は脱北者を「経済的な不法越境者」と見ており、摘発し次第、北朝鮮に強制送還する。北朝鮮は、脱北者に対して暴力、拷問、収容所送りなどの様々な刑罰を課す。

人身売買の被害に遭い北朝鮮に強制送還されたチ・ヒョナさんは、保衛部(秘密警察)で「混血の子どもの出産は認めない」との理由で強制堕胎手術を受けさせられている。

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