「ロシアで北方領土返還支持増えた」は本当か

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太田清

共同通信大阪支社統括整理部長

太田清

共同通信大阪支社統括整理部長

共同通信社入社後、広島支局、大阪社会部、外信部、経済部、ベオグラード支局、モスクワ支局、ローマ支局、47NEWS編集長などを経て2019年10月より現職。イトマン事件、阪神大震災、コソボ紛争、ユーゴ空爆、モスクワ劇場占拠、アフガン紛争、ギリシャ財政危機、東日本大震災などを取材。

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会談前にロシアのプーチン大統領(右)と握手する安倍首相=1日、ブエノスアイレス(共同)

 ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」は2日までに、11月22~28日に行われた日ロ関係に関する世論調査結果を発表し、「クリール諸島(北方領土と千島列島)のうちいくつかの島を日本に引き渡す」ことを支持すると答えた回答者は17%に上ったことを明らかにした。日本の一部メディアは、2016年5月の同様調査の7%と比べると、北方領土返還に好意的な回答が増えたと報じた。 

 ロシアの経済メディア「RBK」などによると、同様の調査は1992年から行われているが、領土引き渡しに「賛成」するとの回答は最高で12%(92年10月)にとどまっており、これだけ見ると確かに引き渡しに好意的な回答が過去最高になったことになる。 

 しかし、まず注意すべき点は同センターが今年の調査から質問内容を変更したことだ。質問内容が変わることに伴い回答結果も変わることは世論調査では当たり前の話だが、これまでの質問は「長年、クリール諸島の南の一部(北方領土)を巡る問題がロ日関係の障害となってきたが、あなたはロシアがこの島々を日本に引き渡すことに原則的に賛成か反対か」との内容だった。 

 それが今回は「南クリール諸島の帰属を巡る問題は、ロ日関係の完全な正常化と平和条約締結の障害となっている。平和条約を締結しロ日間の経済協力を発展させるために、あなた個人としてクリール諸島のうちいくつかの島を日本に引き渡すという考えを支持するか、支持しないか」に変えられている。一目見てわかるように「平和条約を締結しロ日の経済協力を発展させるために」との文言が加えられており、回答結果に影響を与えた可能性は否めない。しかも今回から「どちらかと言えば」支持する・支持しないとの回答を求める方式となっており、確たる意見を持っていない回答者も答えやすい質問となっている。 

 さらに、「クリール諸島の一部の引き渡しの可能性を巡るニュースをフォローしているか」との質問に、「注意深くフォローしている」は19%しかおらず、残りは「聞いたことはあるが、よく分からない」(49%)、「初めて聞いた」(31%)と、日本ほど北方領土問題のニュースに関心がある人がいない実情も浮き彫りになった。こうした人々の一部が「どちらかと言えば」引き渡しを支持すると答えたからといって、どこまで真に受けるべきなのだろうか。 

 さらに、日本に対する好感度を聞く質問では、今回「非常に良い」(10%)、「基本的に良い」(51%)と合わせて61%と、昨年12月の48%(「非常に良い」(6%)「基本的に良い」(42%))と比べて改善しているが、2011年の調査では今回を上回る70%(「非常に良い」(6%)「基本的に良い」(64%))もあった。 

 同センターに所属する社会学者カリーナ・ピピヤ氏は、近年の対日観の悪化は2014年クリミア危機と欧米の経済制裁を受け緊張した対外関係の影響を受けたもので、今回の結果は同危機以前の数字に戻っただけと分析。引き渡しを好感する回答についても設問が変わることで結果が揺れ動くものの、基本的に少数派であることに変わりはないとして「クリミア半島であれクリール諸島であれ、ロシアの領土に関する調査は、多数のロシア人が係争中の領土引き渡しを望んでいないことを示している」と語った。 

 ちなみに今回の調査でも引き渡しを支持しないと答えたのは74%に達している。質問はいずれも北方領土の「引き渡し」について問うており、「返還」「割譲」などとのワーディングは使っていない。仮に北方領土について「主権も含め2島を先行返還し、残る2島について協議を継続する」との日本側が思い描くシナリオを基にした設問ならば、支持するとの回答はさらに減るのは間違いないだろう。 (共同通信=太田清)