EVレーシングカーの先駆け『ニッサン・リーフ・ニスモRC』松田次生&開発陣に聞く制作背景と今後の可能性

 11月30日に電撃的に発表された、『ニッサン・リーフ・ニスモRC』。EVレーシングカーの先駆け的存在として2011年に初代が発表されてから、今回は第2世代となるニッサン・リーフ・ニスモRCは、先代からバッテリー容量を2倍以上に増量し、前後に一基ずつのツインモーター搭載で出力は約2.2倍。最大トルクは640nmで0-100は先代の6.9秒から3.4秒と、大幅にパフォーマンスを進化させて登場した。

 もはや、数字上ではポルシェやフェラーリなどの高級スポーツカーと同等以上のパフォーマンスを秘めたニッサン・リーフ・ニスモRC。11月30日の発表会の翌日、12月1日には富士スピードウェイでメディア向けの技術説明会、そして試乗会が開催され、開発ドライバーを務めたスーパーGTでも同じみの松田次生、そして開発陣が参加。その開発経緯と今後について聞いた。

生産車より全長を100mm、ホイールベースを150mm拡大。その静観なルックスへの評判は高い

 先代から7年の時を経て開発されたニッサン・リーフ・ニスモRC、技術的な一番の課題はバッテリーの進化によるものだった。「現在のEV自動車の開発はバッテリーの開発競争と言い変えても過言ではない」と話すのは、パワートレインの開発担当を務めた進士守氏。先代では約300kmの走行距離だったが、新型リーフでニッサンが開発したバッテリーはその2倍以上のパフォーマンスを秘めており、日進月歩のバッテリー開発が進められている。

 そのニッサン製のバッテリーからのパフォーマンスを有効にサーキット走行向けの出力に変換させるため、ツインモーターの駆動方式は開発当初から定められていたという。ニスモでのパワートレインの役割は、「ニッサン製のバッテリー、パワートレインを使用して、サーキット走行向けにまずは市販車と同じ安全基準で搭載するのが第一。そして、走行性能を含めて電子制御でコントロールする開発をするのがパワートレイン面でのニスモの役割でした」と進士氏は話す。

 車体面ではスーパーGTでニスモの監督を務め、GT500クラスのGT-Rの車体開発責任者でもある鈴木豊氏が担当。「レーシングマシンと同じようにプッシュロッド式のダブルウィッシュボーンサスペンションを前後ともに採用するなど、スーパーGTでのノウハウは活かされています」と話し、前後ともに共通のサブフレームを採用することでコスト面を抑え、メンテナンス性を大きく向上さえた。

 さらにモノコックはフルカーボン製のCFRPモノコックで、東レのカーボンマジック製。バッテリーの容量アップ、ツインモーターの採用ながら先代から300kg増となる1220kgの車重に抑え、袖ヶ浦フォレストレースウェイでのタイム計測では先代から1周5秒以上という大幅な運動性能の向上に成功した。

 そしてパワートレインのドライバビリティ、車体のバランスを整える役割は開発ドライバーの松田次生が担当。先代ではリヤに搭載したバッテリーの重量から、「リヤが出やすい特性だった」(松田次生)点を修正し、フロントとリヤのモーターの出力配分やダンパー/スプリングの味付けを担った。

松田次生か特にこだわったのはデフの設定。「リヤは(アクセルオンでもオフでも左右の回転数を制限する)2way式(LSD)で問題ないんですけど、四駆になってフロントを2way式にするとアンダーステアが出て曲がりづらかったので、フロントは1way式にして加速の時だけアウト側のトルク配分を強くして曲がりやすいクルマにしました」と松田次生。8カ月の開発期間の中で5回のテスト走行を行い、ニッサン・リーフ・ニスモRCを仕上げていった。

ニッサン・リーフ・ニスモRCの開発を務めた松田次生

■ニッサン・リーフ・ニスモRC、e-WorldRXなどラリーへの参戦の可能性は……

 その言葉どおり、試乗したニッサン・リーフ・ニスモRCはとてもハコ車とは思えない、ロールや前後のピッチがほとんどない車体姿勢で、左右の切り返しにもステアリングの動きに機敏にクルマの向きが反応する。もちろん、加速性能は事前の評判どおりだったが、一番の驚きはおそらく、フォーミュラカーはきっとこのような感覚なのだろうと思わせるようなクイックな車両特性だった。回生システムは大きくは介入しないようにセッティングされていて、ブレーキングでも違和感なく、積極的にドライブできることを主眼としている。

 このニッサン・リーフ・ニスモRC、現在は6台が生産されているが、この後はどのように活用されていくのだろう。ニッサンのグローバルマーケティング担当、ルードゥ・ブリース常務役員が答える。

「ニッサン・リーフ・ニスモRCを開発した目的は我々の市販車、EVの生産技術とフォーミュラEなどのレースカーとの関連付けにあります。6台のニッサン・リーフ・ニスモRCをこれからどのように使うのか。国内だけでなく海外を含め、デモ走行などでニッサンの技術をアピールしていく役割を担っています」

 制作過程としては、ニッサンがオーダーする形で開発を担当したが、両者ともに今後の量産予定、製造予定は今のところないとのことで、ニスモがニッサン・リーフ・ニスモRCの現行の6台限りの存在となる。

 今年の6月にはWorldRX世界ラリー選手権が2020年からはEVのみで争われる『エレクトリック・ワールド・ラリークロス・チャンピオンシップ(E-WorldRX)』に変わることが発表されたが、ニッサン・リーフ・ニスモRCの参加についてはルードゥ・ブリース常務役員が明確に否定。実際のレースへの参加予定も今のところはなく、イベントや試乗会などでのプロモーション目的の存在になるという。

 車体スペースとしてはさらにモーターをふたつ追加できる余地があり、今後のバッテリー開発次第で4輪独自にモーターで駆動できる可能性を残すなど、EVレーシングカーの魅力と可能性を存分に秘めた存在でもあるニッサン・リーフ・ニスモRC。外観のデザイン性の高さとそのパフォーマンスは、プロモーション目的だけでは「もったいない!」のひと言。フォーミュラEよりも身近に感じることができるEVレースマシンとして、やはり、レースカテゴリーへ参戦して結果を出すことが一番のファンへのアピールとプロモーションになるはず。フォーミュラEだけでなく、これから訪れるハコ車のEVレースの先駆けとして、国内外のレースカテゴリーで戦う姿を是非、見てみたい。

ニッサン・リーフ・ニスモRCの開発スタッフと松田次生
運転席の背後に巨大なバッテリーを搭載するミッドシップのような構造形態。リヤはバッテリー後方に前後共通のサブフレームが設置される
「テスト中はいつも運転席にいたので見れなかった」と松田次生もボンネット内に興味津々

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