次兵衛岩に登る

 入り口はしゃがんでやっと通れるくらいの狭さ。その奥の暗闇へ勇気を出して進む。懐中電灯をつけて内部をうかがうと、奥行き10メートルほどの空間があった。長崎市外海地区の山中にある次兵衛(じひょうえ)岩洞窟だ▲車を降りてから、道なき道を歩んで片道1時間半。キリスト教が禁じられた江戸時代の初期、長崎一帯で布教をしたトマス次兵衛神父が潜んだ場所と伝えられる▲別名、金鍔(きんつば)次兵衛。長崎奉行所の厳しい取り締まりをかいくぐる神出鬼没の活動をしたが、最後は捕まって拷問を受け殉教した。ローマ法王庁に「福者」として列せられ、今年で10年。外海公民館の催しに参加して現地を訪ねた▲神父が潜んだ岩の所在は長い年月のうちに分からなくなっていた。1983年、信者の男性が山中を探し歩いた末に岩を発見。土地を買い取り、カトリック長崎大司教区に寄進した▲神父の足跡をしのんで現地を訪ねる信者は絶えないという。倒木をまたぎ沢の石を乗り越えてひたすら進む道のりに、迫害に耐えて信仰を守り抜く困難さを重ね合わせているかもしれない▲「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に、ここは含まれていない。だがキリシタンが歩んだ苦難の歴史の一端をまざまざとイメージできる場所だ。深い森の風景はきっと400年前とほぼ同じだろう。(泉)

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