【世界から】〝移民先進国〟の豪から学ぶこととは

ヨーロッパ系、アジア系、アフリカ系……多種多様な人々が行き交うシドニーの街。聞こえてくる言葉もさまざまだ(C)Middy Nakajima

 数多くの移民を受け入れてきたオーストラリアの“多民族度”は、世界でもトップクラスだ。2016年の国勢調査では、自分が「海外生まれ」、あるいは「片方または両方の親が海外生まれ」と答えた人はほぼ半数(49%)。たとえ両親がオーストラリア生まれでも、その親が移民という人も少なくなく、祖父母の代まで含めると、海外と縁のない方が少数派ということになる。

  5人にひとりは英語以外の言葉を家庭で話し、使用されている言語の種類は―日本では想像できないだろうが―300を超える。都市部と地方の差はあるものの、主要都市で生活していると職場や学校、地域社会に海外生まれの人がいるのが〝フツウ〟。そんな環境に身を置けば、日々異文化に触れるのは当たり前のこととなる。

 ▼出生国の移り変わり

 オーストラリアに住んでいる人の出生国は、時代とともに変化している。かつてはヨーロッパが中心だったが、近年はアジア系へシフトしているのだ。オーストラリア連邦が成立して10年後の1911年の時点では、海外生まれ居住者の75%が英国出身者だった。第2次世界大戦後になると、労働力不足を背景に東欧や南欧からの移民を多く受け入れるようになった。非白人を排除する「白豪主義」を70年代に撤廃した後は、「家族移民」から専門的知識や技術を有する「技術移民」の受け入れへと比重を移した。その一方で、ベトナムを始めとする難民も多く受け入れている。2016年には、中国とインド生まれの合計居住者数が、とうとう英国生まれを上回った。 

(オーストラリア統計局発表の国勢調査データより作成)

 外国人労働者や移民・難民を巡る変化のスピードは速い。新たな民族グループが入ってきて摩擦や軋轢が生まれ、やがて社会的な貢献と共に認められ、また別のグループが……という繰り返しで、白豪主義が終わって50年足らずのうちに、およそ200の国と地域出身の人々がともに暮らす国になった。

  変わりゆく現実に真正面から向き合うこと、その一歩先を見て「誰をどのように受け入れるか」を決めること、問題を解決するための努力を重ねること、変化に柔軟に対応し、スピーディーに方針を転換すること――そういったことを積み重ねて、近年のオーストラリアは時代に合った移民政策を掲げ、自国の発展に寄与する「望ましい外国人」を迎え入れてきた。必要な労働力を確保し、成長を続けるため、外国人材の活用は不可欠だ。 

▼一時滞在者と永住者

 就労が可能なビザを持っている一時滞在者は、18年9月末時点でニュージーランド人を対象とした「特別カテゴリービザ」保持者が約68万人、「就労ビザ」保持者が約15万人、「ワーキングホリデービザ」保持者が約13万人。就労時間に制限のある「学生ビザ」で滞在する57万人超を加えると、約150万人の非永住者が、人口2500万人が住むオーストラリアの一翼を担っている。

  永住ビザ発給数の上限はここ数年変わっておらず、年間約19万人。その7割近くが「技術移民」で、経済的利益をもたらす高度人材の受入れを優先している。基準を満たす専門知識や技術、経験を有し、英語力が一定以上、犯罪歴がなく、若くて健康、といった条件をクリアする人材は、定住に際して社会的負担となるリスクも少ない。 

 別枠として難民等を対象にした人道プログラムもあり、17-18年度は上限いっぱいの1万6250人にビザが発給された。 

 ビザの種類別出生国トップ5(17-18発給分)は次のようになっている。

(内務省発表の各ビザ報告書をもとに作成)

▼ウインウインの関係

 社会情勢や経済状況、労働市場の動向等により、移民政策は頻繁に見直される。だが、「オーストラリア人雇用優先」と「オーストラリア人と同等の雇用条件」の原則はぶれない。「仕事を奪われた」と批判の矛先が移民に向かったり、安価な労働力として都合よく使われた外国人が社会から疎外されたりすることが、分断や混乱を引き起こすことをオーストラリアは過去の経験から学んでいるからだ。

  その点、日本は今大きな岐路に立っていると思う。外国人労働者を「使い捨ての労働力」ではなく、「同じ国に生きる人」としてきちんと向き合わないと、思わぬしっぺ返しを食らうことになる。失敗例は世界中にあふれている。

  移民や外国人労働者が国益に資するよう、未来のオーストラリア社会を構成する一員として公平に扱い、新旧の住人がウインウインの関係を築くことを目指して、試行錯誤しながら現在進行形で多文化共生への道を歩んでいるのが今のオーストラリアだ。

  たとえば就労ビザ申請にはポジションの審査が含まれる。大前提は条件を満たす人材が国内で見つからないこと。基本給(年収)最低ラインは5万3900豪ドル(約444万円)だが、就労場所や職種に応じた妥当な「マーケットサラリー」であることを証明する必要がある。実際に17―18年度発給分の就労ビザで示された基本給の平均額は、宿泊・食品サービス業の5万8900豪ドル(約486万円)から、鉱業の17万7600豪ドル(約1464万円)までと幅広い。

 ▼多様性をよしとする

 異質な存在に寛容なオーストラリア社会でも、差別や偏見がないといったらウソになる。けれど、不穏なムードが起こった時には、移民を肯定し、多様性をよしとする声が上がるのが、今のオーストラリアの健全さだと思う。数カ月前にも議会で扇動的な人種差別的演説を行った上院議員に対し、さまざまな立場の人々が異議を唱えた。

 外国人が活躍できる社会をポジティブにとらえる人が多いのは、オーストラリアになじみ、貢献している海外生まれの家族や友人・知人、隣人を持つ層の多さゆえだろうか? 

 ダイナミックに変わりゆくこの国に長く暮らしていると、移民政策というものが、日常生活に密接に関わりつつ、中長期的な経済や社会、ひいては国のあり方そのものに多大な影響を及ぼしていることを実感せずにはいられない。(シドニー在住ジャーナリスト南田登喜子=共同通信特約)

最初のころは現地に住む日本人ばかりだった「日本映画祭」も、回を重ねるに連れて日本人以外の姿が目立ってきた(C)Middy Nakajima

© 一般社団法人共同通信社