2018年を振り返って(上)

 2018年も残すところあと僅か。シェアハウス問題に端を発したスルガ銀行の不適切融資や日産自動車のカルロス・ゴーン会長(当時)の逮捕など、大きな経済ニュースが目立った1年を振り返った。

自然災害と海外市況の混迷

 2018年の企業倒産は低水準で推移し、4年連続で8,000件台にとどまる見通しとなった。これは1985年から1990年までの6年連続前年割れを抜き、過去最長の10年連続の記録をさらに更新することになる。
 世界の景気は米国を中心に拡大が続いた。国内ではグローバル企業が利益を大幅に改善し、上場企業の収益は過去最高となった。2012年12月に始まった今回の景気拡大は、2018年12月で73カ月を迎える。これは戦後最長の2002年1月から2008年2月までの73カ月に並ぶ。ただ、実質所得の伸び悩みもあって実感の乏しい「景気拡大」になろうとしている。
 年後半に入ると米中の貿易摩擦、中国景気の減速、混迷する中東情勢で原油価格の高値など、不透明さが増した。国内では7~9月に西日本豪雨や北海道胆振東部地震など、大きな自然災害に見舞われた。この影響で個人消費が落ち込み、原材料費や人件費の上昇もあって7~9月期のGDP(速報値)は年換算▲1.2%と2期ぶりのマイナス成長になった。

増加が続く「人手不足」関連倒産

 厚生労働省が10月30日発表した9月の有効求人倍率(季節調整値)は、前月より0.01ポイント高い1.64倍だった。1974年1月以来、44年8カ月ぶりの高水準で中小企業を中心に人手不足が深刻度を増した。
 2018年1-10月の「人手不足」関連倒産は324件(前年同期比20.4%増)と、増勢が続く。調査を開始した2013年以降で最多の2015年(340件)の件数を上回る勢いだ。
 内訳は、代表者や幹部役員の死亡、病気入院、引退などによる「後継者難」型が237件(前年同期比13.9%増)、人手確保が困難で事業継続に支障が生じた「求人難」型が46件(同48.3%増)、中核社員の独立、転職などの退職から事業継続に支障が生じた「従業員退職」型が22件(同29.4%増)、賃金等の人件費のコストアップから収益が悪化した「人件費高騰」型が19件(同46.1%増)。
 「後継者難」型が7割(構成比73.1%)を占め、事業承継の問題も浮き彫りにしている。また、「求人難」型の増加も目立った。産業別では、最多がサービス業他の90件(前年同期比42.8%増)、次いで建設業の64件(同1.5%減)と、労働集約型の産業が突出している。
 業績改善が進んだ企業と遅れている企業の二極化が拡大している。小・零細企業は省力化投資の資金余裕もなく格差がさらに拡大する悪循環に陥っている。
 政府は深刻な人手不足から外国人労働者の受け入れ策に乗り出し、 新たな在留資格を創設した「出入国管理法改正案」を国会に提出した。ただ、法案が成立しても新制度導入は早くて来年4月以降で、当面の間は人手不足の解消は難しく、「人手不足」関連倒産はしばらく増勢をたどる可能性が高い。

人手不足関連倒産件数 年次推移

「個人消費」関連の業種で苦境目立つ

 内閣府が11月14日発表した2018年7-9月期の実質国内総生産(GDP)速報値は、2期ぶりにマイナスに転じた。台風など相次ぐ自然災害の影響が、生産や消費を押し下げた。2018年1-10月の倒産は、10産業のうち、「小売業」と「サービス業他」の個人消費関連の2産業が前年同期を上回った。倒産は次第に川下産業から川上産業に遡り、2018年は卸売業も増加に転じるか微妙な状況だ。
 2018年1-10月の「小売業」倒産は961件(前年同期比4.6%増)。リーマン・ショックの2008年(1,842件)以来、10年ぶりに前年を上回る可能性が高くなった。増加が目立つ業種は、「スーパー」が前年同期比58.8%増(17→27件)。このほか、ネット通販が拡大しているが、「通信販売・訪問販売小売」も同33.3%増(42→56件)と増えている。2009年以降では過去最多の2015年(77件)に迫る勢いだ。
 来年10月、消費税率が10%に引き上げが予定されている。京都大学が実施した「消費増税の心理実験」の分析結果によると、消費税率10%へのアップは、単に2%の増税にとどまらず、消費者の心理的な「消費縮減効果」に拍車がかかることが示された。これは従来の消費税率5%や8%の場合は、消費税の計算が面倒くさく、「消費税分を十分に考えず」に買い物をしていた人が多かった。だが、消費税率10%になれば「価格の1割」という計算が容易だ。このため消費税分の金額をいやが応でも意識した消費行動を採らざる得なくなり、これがブレーキとなって今まで以上に消費を縮減させてしまうことが危惧されるという。
 消費者の節約志向が強まると、倒産が緩やかな増勢に転じる要因にもなりかねない。

シェアハウス問題、スマートデイズの関係先に動き

 年明け間もない1月下旬、(株)スマートデイズ(TSR企業コード:294730672、東京都中央区)が展開する女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」のオーナーらは、同社からサブリース賃料が支払えなくなったことを通知された。スマートデイズは入居率の向上や他社との事業提携で再建を模索したが失敗。約60億円の負債を抱えて4月9日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。だが、オーナーらの反発で再建が難しくなり、5月15日に同地裁から破産開始決定を受けた。
 大半のオーナーに融資していたスルガ銀行(TSR企業コード:449001504、沼津市)もシェアハウス問題で経営の根幹が揺らいだ。岡野光喜・代表取締役会長(当時)ら経営陣は、第三者委員会の調査で善管注意義務違反を認定され辞任。一連の不正融資で多額の貸倒引当金を計上し、2018年9月中間期の連結決算で1,007億円の赤字(前年同期は211億円の黒字)に転落した。そして、金融庁はスルガ銀行に一部業務停止命令を発動した。
 シェアハウス問題は広く、根深い。10月に入りスマートデイズの筆頭株主だった(株)オーシャナイズ(TSR企業コード:296564656、東京都港区)の本社には、スマートデイズ破産管財人名で「許可なく無断で立ち入り又は動産搬出等する者は刑罰により処罰されることがあります」との公示が掲示された。関係筋によると、同物件はスマートデイズが保有していたため、破産手続き上の措置がとられたという。同時期、オーシャナイズは本社から退去。しかし、11月に入ってもオーシャナイズの商業登記簿の本店所在地、ホームページの住所に変更はみられない。
 また、オーシャナイズは、スマートデイズの大地則幸・元代表取締役らを相手取り、1億円の損害賠償を求め東京地裁に提訴した。裁判記録などによると、2017年7月、オーシャナイズはスマートデイズに対して出資金20億40万円、貸付金5億9,960万円を送金。これに伴い、オーシャナイズはスマートデイズの議決権75%を取得し筆頭株主となったが、その後のスマートデイズの破綻で合計24億7,829万円の損害が生じたという。オーシャナイズ側は、シェアハウス事業のスキーム・ビジネスモデルは不健全であった上、スマートデイズは収益性の改善策を実行しておらず、これらを知っていれば資金提供はしなかったとしている。一方、大地元代表らは、オーシャナイズは2017年5~6月にかけてスマートデイズのデューデリジェンスをA公認会計士事務所とB法律事務所に依頼した上で、投資判断したと主張。また、スマートデイズが民事再生を申し立てた際の代表者はオーシャナイズの赤間健太取締役だったことなどを挙げ争う姿勢を示している。

人気がなくなったオーシャナイズの本社(10月末撮影)

人気がなくなったオーシャナイズの本社(10月末撮影)

金融機関の貸出姿勢、硬化か

 金融庁は9月26日、106ある地方銀行の52行が2期以上連続で本業利益が赤字になっていると公表した。これまで本業赤字を貸倒引当金の戻し入れ益や公社債等の含み益でカバーしていた。だが、低金利や人口減少で事業環境が一段と厳しくなり、生き残り策が問われている。
 地方銀行を中心に金融機関は、「安定した収益と将来にわたる健全性を確保し、金融仲介機能を十分に発揮することを通じて、地域企業の生産性の向上、ひいては地域経済の発展に貢献していく」ことを金融庁は求めてきた。だが、収益源探しは容易でなく再編を模索する動きもあるが一筋縄ではいかない。
 超低金利や活況を呈した不動産市況を背景に、不動産向け融資が急増。個人が手掛ける貸家への融資額は2018年6月に約23兆円と、2009年に比べて2割増えた。このうち地方銀行のシェアは6割を占める。金額が大きく効率的に一定の金利を稼げる不動産向け融資は魅力的だった。これがスルガ銀行の不祥事の温床にもなった。金融庁は早速、不動産への過剰融資を抑制する姿勢に転じ、金融機関は厳格な審査に動きだした。
 金融庁は金融機関に「日本型金融」からの脱却を求め、「事業性評価」に基づく貸出を促している。だが、リスクとリターンが見合わないミドルリスク企業向け貸出が増えている。
 また、2018年4月、実効性のある保証制度にすることを目的に新たな信用保証制度がスタートした。現在は低金利下で保証料に割高感があり、同制度の改定の影響は見受けられない。今後はリスクを回避したい金融機関の貸出姿勢が厳しくなることも予想される。

建設市況、2018年でピークアウト?

 2018年の建設業界は好調な1年だった。国土交通省によると、建設投資のピークは1992年度の84兆円だったが、2011年度は42兆円に半減した。その後、東日本大震災の復興需要や首都圏の大型再開発、東京五輪・パラリンピック向けのインフラ整備などで、2018年度(見通し)は56兆6,700億円に盛り返した。
 上場ゼネコン58社の2018年3月期の売上高は12兆896億円、当期利益7,468億円で、2008年のリーマン・ショック以降の10年間で過去最高となった。未上場建設業者13万8,645社も、2017年度(2017年4月~2018年3月決算)の売上高は62兆5,909億円(前期比2.2%増)、当期利益は1兆9,588億円(同12.7%増)と、10年間で最高を記録した。
 2018年4月以降も繰越工事や安定した受注確保で、建設業界は好業績を維持している。国土強靭化計画に沿った復興や災害対策などの公共工事、オリンピック特需、インバウンド効果などが期待材料になっている。
 ところが、2019年度の建設投資の見通しは55兆1,500億円(前期比2.7%減)と、厳しさが見込まれる。建設技能者の高齢化や若年労働者の減少など人手不足も深刻化し、労務費の上昇や資材価格の高騰なども採算確保の課題になっている。五輪特需は開催前にピークアウトする見方もあり、建設業界にとって2019年は注目の1年になる。

未上場建設業者売上高・利益金推移

高齢者の被害相次ぐ、消費者被害の2つの破産事件

 2018年は高齢者、若者をターゲットにした企業の破綻が相次いだ。1月の成人式、はれのひ(株)(TSR企業コード:872372723、横浜市)が、新成人の希望を打ち砕く無責任さで事業を停止した。次いで、今度は磁器治療器販売のジャパンライフ(株)(TSR企業コード:291624898、千代田区)、食品販売の(株)ケフィア事業振興会(TSR企業コード:298080745、千代田区)の2社が高齢者に狙いをつけた。ともに2018年に破産開始決定を受けたが、2社の被害者は約4万人超、被害額は3,000億円超の大型詐欺事件でもあった。
 ジャパンライフは、家庭用の磁器治療器など100万円を超える高額商品を顧客に販売。顧客はその商品をジャパンライフに預け、ジャパンライフが他の会員へのレンタル料を支払うスキームだった。しかし、顧客が預けていた商品の大半が存在せず、新たな契約で配当を支払う自転車操業(ポンジスキーム)が消費者庁などの調査で明らかとなった。消費者庁は1年間で4度の行政処分を出し、全国で被害弁護団が立ち上がった。
 ジャパンライフは資金繰りが限界に達し、2017年末に銀行取引停止処分を受けた。しかし、以降も事業継続の意欲を示し、被害対策弁護団などに対決姿勢をみせていた。弁護団は2018年2月、債権者としてジャパンライフに破産を申し立て、負債約2,400億円を抱えて3月、東京地裁から破産開始決定を受けた。
 11月12日に開催されたジャパンライフの債権者集会で山口隆祥・代表取締役は、「詐欺ではない」と抗弁した。しかし、警視庁などがジャパンライフに対し特定商取引法違反の容疑で捜査開始と報道され、刑事事件化する可能性が高まっている。
 ケフィア事業振興会は、50社を超えるグループ企業と連動していた。「柿」から「太陽光発電」など幅広い商材を扱い、半年後に買い戻す契約やケフィアグループに貸し付ける契約など一部では年利20%を超える高利商品を展開。3万人を超える顧客から1,000億円以上の資金を集めた。自転車操業も限界となり、2017年11月頃から顧客への支払いに遅れが生じた。2018年7月にはジャパンライフと同様に被害弁護団が結成。弁護団は、債権者破産や刑事告発も視野に準備を進めていた。9月3日、ケフィア事業振興会が破産を申請。その後、11月1日までにケフィアのグループ会社27社が破産開始決定を受けた。
 高金利を謳い消費者から資金を集めるやり方は変わらない。消費者保護の観点で預託商法などの法改正が議論される契機になった事件となった。
(続く)

ケフィア事業振興会の「公示書」をみる高齢者

ケフィア事業振興会の「公示書」をみる高齢者  (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2018年12月5日号掲載予定「2018年を振り返って(上)」を再編集)

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