「具体性」「実践」をキーワードにユニークな催し…日本野球科学研究会

パネラーを務めたロッテ・吉井理人投手コーチ【写真:広尾晃】

午前はMLBのコンディショニング理論レクチャーと子供向け「野球遊び」

 野球の研究者、指導者、競技者が一堂に会して研究発表を行い、野球の未来を語り合う、日本野球科学研究会第6回大会が筑波大学つくばキャンパス体育芸術エリアで行われた。第2日の12月2日には、ユニークなイベントも行われた。

 この日は、午前にオンコートレクチャー「メジャーリーガー・プロ野球選手のコンディショニング」が行われた。

 登壇者は今季から千葉ロッテの投手コーチに就任した吉井理人氏と、井脇アスリートコンディショニングの井脇毅氏。吉井氏は日本ハム投手コーチ時代の2014年に筑波大学大学院に入学し、野球コーチ論を研究。その後、ソフトバンク、日本ハム、千葉ロッテで投手コーチを歴任する中で、大学院で学んだコーチング理論を現場で実践している。

 井脇氏は、筑波大学硬式野球部トレーナーを皮切りに、トレーナーとしての道を歩み、片山晋呉、工藤公康、田澤純一などトップアスリートのトレーナーとして、世界で活躍してきた。コーディネーターは、筑波大学体育系の川村卓准教授。

 吉井氏は、MLBの先発投手だった時代にローテーションの間の日にどのような調整を行っていたかを紹介。NPBとの違いも説明した。また、吉井氏がプレーしていた時代と今ではMLBのコンディショニングの考え方が大きく変わってきていると述べた。

 井脇氏は、トレーナーの立場から、MLB投手のコンディショニングを具体的に説明。日本野球界のコンディショニングに関する課題も指摘。またコンディショニング施術を、実際の選手の体を使って丁寧に紹介した。

 会場にはトレーナーやトレーナー志望の学生も多く、関心度の高いレクチャーとなった。

 オンコートレクチャーに並行し、筑波大学野球場で、小学生、未就学児童を集めて「野球遊び 未就学児のための野球あそび」が行われた。

 準備体操、ボール投げやバッティングなどの体験の後、「かんたんベースボール」が行われた。年齢別に分かれた子供たちは6人ずつチームを作り、筑波大学野球部員の指導の下、ゲームを行った。野球の経験はあまりない子どもたちだったが、打つ、走る、ボールを捕るというベースボールの基本的な動きを体験できるゲームに、大きな歓声を上げていた。球場には父母の姿もあり、研究会参加者にとって普及活動の実際に触れる貴重な機会となった。

筑波大学球場で行われた「野球遊び 未就学児のための野球あそび」の様子【写真:広尾晃】

野球に活かす古武術と打撃の科学的解析 対照的なワークショップ

 午後からは、2つのワークショップが行われた。

 筑波大学T-DOMEでは、びわこ成蹊スポーツ大学スポーツ学部の高橋佳三教授が、「野球に活かす古武術」と題し、古武術の中で野球に活かすことのできる要素をピックアップして実技を交えて紹介。特に「トレーニング以前に備えていたいこと」として、姿勢(構造)の力や集中(集注)と身体の感じについて、選手の体を使って、具体的に説明した。会場にはマットが敷かれ、参加者は自身で体を動かしながら、追体験していた。

 SPEC1階フロアでは筑波大学体育系の小池関也准教授によって「力検出型センサーバットによる打撃動作の分析」が紹介された。

 野球の打撃動作では、左右の各手によってバットを操作している。従来、左右の手がどのように力やモーメントに作用しているかはわからなかったが、今回、各手による力やモーメントを計測可能なセンサーバットを開発し、硬式野球部員による打撃動作の分析を披露した。

 野球選手が実際にどのようにバットを扱っているかが、データと波形グラフによって具体的に紹介された。

 2日目の様々なイベントに共通するのは「実践」「具体性」だった。様々な分野で野球にかかわってきた参加者にとっては極めて刺激的な体験となったはずだ。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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