「リレーコラム」最大の目標は競技会場を満員に 認知度向上へ元SMAPメンバーも

車いすフェンシングでロンドン五輪銀メダルの三宅諒に勝ち、ガッツポーズするアジアパラ大会代表の加納慎太郎(右)(日本財団パラリンピックサポートセンター提供)

 2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会や、日本障がい者スポーツ協会にとって、東京パラリンピックの最大の目標はメダルの数などではない。

 組織のトップがことあるたびに口にするのは「全ての競技会場を全日程、満員にすること」だ。

 パラスポーツが抱える最大の課題は何と言っても「関心の低さ」である。

 「障害の程度によるクラス分けが細かくて分かりにくい」「体験したことがないからルールになじみがない」といった理由が、国民の無関心につながってきた。

 4年に1度のパラリンピックはテレビで連日放映され、大会期間中は瞬間的に注目が集まるが、以降は「祭りの後」となり、話題に上ることは少ない。

 2020年に向けて、自治体や競技団体は認知度向上のために試行錯誤を重ね、各競技団体はそれぞれのスタイルでPRを続けている。

 それでも、大会本番まで2年を切った現時点で、競技会場の客席は、やはり空席が目立っている。

 そんな中、目を引いたのが11月23日に日本財団パラリンピックサポートセンターが開催した「パラフェス2018」というイベントだ。

 3回目となる今年は、五輪メダリストとパラアスリートの真剣勝負が目玉だった。

 卓球ではリオデジャネイロ五輪銀メダルの吉村真晴(名古屋ダイハツ)と、今年のパラ卓球世界選手権銅メダルの岩渕幸洋(協和発酵キリン)が対戦。フェンシングではロンドン五輪銀メダルの三宅諒(フェンシングステージ)とアジアパラ大会代表の加納慎太郎(ヤフー)が、お互いに固定された車いすに乗って剣を交えた。

 一見テレビの企画のようにも見えるが、公式大会の審判を伴って選手が登場すると会場は厳かな雰囲気に。

 静寂の中、ボールを打ち合う音、剣がぶつかり合う金属音が会場内に響いた。会場は東京五輪・パラリンピックの舞台となる武蔵野の森総合スポーツプラザ。自分が2年後のパラリンピックの会場にいるような錯覚を覚えた。

 イベントに約6000人のファンが集まったのは、国民的アイドルグループSMAPのメンバーだった稲垣吾郎さん、草☆(弓ヘンに前の旧字体その下に刀)剛さん、香取慎吾さんの3人が進行役を務めたことが大きい。

 3人は国際パラリンピック委員会(IPC)の特別親善大使を務め、自らの楽曲の売り上げ約2300万円をパラスポーツ振興のために全額寄付した。

 現在は日本におけるパラスポーツの応援隊長のような存在となっている。

 パラスポーツ観戦が初めてという入場者が大半を占めた中、香取さんは「皆さんが10人の友達、家族に体験した面白さを伝えてくれれば、2020年に向けて大きな盛り上がりになる」と語りかけた。

 イベントの後半は全盲のシンガーソングライター木下航志さん、リオ大会閉会式でも演奏した両腕のないブラジル人アーティストのジョナタ・バストスさん、盲目の小学生ドラマー酒井響希さんがセッションでパフォーマンスを披露した。

 スポーツと音楽が融合したパワフルなイベントで、障害者スポーツの現場でよく聞かれたという「可愛そうな人が頑張っている」という空気は全く感じられなかった。

 東京大会を盛り上げるため、スポーツ関係者だけでなく財界、芸能界などを含め、多くの人が知恵を絞り、そのエネルギーに圧倒されることも多い。

 年間通じてパラスポーツの現場にいると、取材対象者が「障害者」だと感じることが少なくなった。

 2019年はパラリンピックのテストイベントを含め、工夫を凝らした多くの大会が予定されている。この機会を是非楽しんで欲しい。

三木 智隆(みき・ともたか)プロフィル

7年間のスポーツ紙勤務を経て2009年に共同通信入社。ゴルフ、陸上などを担当し、ロンドン五輪、ソチ・パラリンピックを取材。14年に大阪運動部に異動し高校野球、17年に東京本社に戻り、パラリンピック、サッカーなどをカバーしている。奈良県出身。

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