根拠乏しいがん治療情報 うのみにせず冷静に判断を 日本医科大武蔵小杉病院の勝俣・腫瘍内科教授

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 インターネットの普及で、根拠の不確かながん治療の情報が氾濫[はんらん]しています。何が正しく、何が誤りなのか。戸惑う患者、家族が多いのが現状です。日本医科大武蔵小杉病院(川崎市)の勝俣範之・腫瘍内科教授は「根拠の乏しいがん治療の情報にだまされず、冷静に判断してほしい」と警鐘を鳴らしています。(高本文明)

 -よく聞かれるがんの治療法にがん免疫療法があります。

 「がん免疫療法には、がんワクチン療法やエフェクターT細胞療法など、保険の利かないさまざまな治療が氾濫しています。日本臨床腫瘍学会が『がん免疫療法ガイドライン』で推奨する治療は、保険の利く免疫チェックポイント阻害剤だけです。ただし緊急時に十分対応できる医療機関で、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで投与するように決まっています」

 「免疫チェックポイント阻害剤は、今年のノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑[ほんじょたすく]先生らが開発しました。肺がんなど一部のがんによく効き、保険適用です。しかし、保険適用外のがんにも勝手に自由診療として行うクリニックがあり、問題になっています。重篤な副作用である重症筋無力症などが起きる恐れがあり、実際に死亡例も出たため、救急対応ができる医療機関に限られるのです」

 -問題がある医療でいつも被害に遭うのは患者さんですね。

 「医療者の中に、医療を否定する考え方があるのは問題です。ある卵巣がんの患者さんが、『抗がん剤は悪だ』と効果を否定する医師の著書に影響され、抗がん剤を拒否しました。代わりに免疫療法や遺伝子治療、食事療法、ビタミンC療法など、いずれも保険が利かない方法を試して700万円使いました。それでも再発し、胸水がたまって救急搬送されました。その後、当院で治療を受け、元気になりました」

 「手術が必要なのに放置した胃がんの患者さんの例もあります。がんそのものや手術への恐怖から放置したようですが、命がなくなる方が本当はもっと怖いのではないでしょうか。それでもかたくなに手術を拒否する方もいます」

 -根拠や効果が明らかでない治療法が少なくないようです。

 「私は医師が行う医学的根拠に基づかない、患者さんにメリットがない医療行為を、とんでもない医療として『トンデモ医療』と呼んでいます。多くは自由診療で行われ、保険診療の規制外になり、『何でもあり』の状況になります。患者さんに有害で効果がなく、高額なものばかりです」

 -具体的にはいかがですか。

 「免疫細胞療法、大量ビタミンC療法、遺伝子治療、保険適応外の放射線治療、先進医療に指定されていない研究段階の未承認治療などです。効果が明らかでないこうした治療は、本来、研究や臨床試験としてのみ行われるべきです。また、患者から治療費を取るのは倫理的に問題があり、研究ではなくなってしまいます」

 -インターネットなども要注意ですね。

 「効果はないのに効果があるように宣伝すると違法になるため、『がんが消える』『死滅する』『遠ざける』『勝つ』といった怪しげな表現がよく使われます。著名人が民間療法にすがる例も少なくなく、注意が必要です」

 「本庶先生も根拠のない免疫療法は『金もうけで非人道的だ』と指摘しています。わらをもすがる思いの患者さんに根拠のない治療を提供するのは問題です。ノーベル賞受賞に便乗するような、自由診療の宣伝が増えても決して飛びつかないでください。情報をうのみにせず冷静になってください。次回は正しい医療情報を見極めるためのアドバイスをしましょう」

(2018年12月5日付 熊本日日新聞夕刊掲載)