2018年を振り返って 与信ニュースのキーワードは…(下)

PROEARTH破綻の余波

 2018年にリース業界などで話題をさらったのは建機・トラック販売の(株)PROEARTH (TSR企業コード:363795677、厚木市、以下PRO社)の破綻だった。PRO社は2017年末の12月26日に151億円の負債を抱え民事再生法の適用を申請。年が明けると再生手続きが廃止され、破産に移行した。
 設立10年足らずで年商177億円に急成長。だが、内幕は循環取引、融通手形、多重リースなどの噂が絶えなかった。2018年に入ると、矛先が親密先の建機販売・レンタルの(株)ビバック(TSR企業コード:296003956、品川区)に向かった。
 PRO社とビバック。社長同士が旧知で、復興需要で歩調を合わせ拡大した。PRO社の倒産の煽りでビバックは5月7日、東京地裁に185億円の負債を抱え破産を申請した。
 2社の破綻以降、リース会社は建機・トラックのリース取引に慎重になった。ビジネスモデルが似通った同業他社に厳しい視線が注がれ、第3、第4のPRO社・ビバックを懸念する声は尽きない。一方、PRO社の破綻時にスポンサー支援を名乗り出た(その後、支援を撤回)(株)エム・テック(TSR企業コード:310340748、さいたま市)もまた10月1日に破綻した。PRO社への傾注が金融機関の不信を招いたことが一因でもあった。
 エム・テックは、東日本大震災の復興工事や東京五輪・パラリンピック関連工事を積極的に獲得。2017年7月期の売上高は244億2,700万円を計上していた。エム・テックの破たんで請け負っていた全国88カ所(請負代金総額549億9,150万円)の工事が契約解除となった。このなかにオリンピック施設関連工事や復興関連工事も含まれていた。88カ所の工事には数十社の下請け先が連なり、契約解除による影響も懸念される。
 そして2018年11月、PRO社の代表を務めていた松井義仁社長が業務上横領などの疑いで神奈川県警に逮捕された。一方、PRO社やビバックの旧関係者が各地で新会社を立ち上げ、本格的に再始動している。多くの関係者に衝撃を与えた一連の破綻劇は、まだ余波が収束したとは言いがたい。2019年はどのような展開が待ち受けているのか。

PROEARTHの本社

PROEARTHの本社

問われる「役員報酬」

 上場企業は、2010年3月期から連結子会社からの報酬を含め1億円以上の役員報酬を受け取った役員(取締役、監査役、執行役員)と金額を、有価証券報告書に記載することが義務付けられた。2010年3月期から2018年7月期までに1億円以上の報酬を受け取った役員の個別開示を行った企業は588社、人数は1,438人に達する。歴代最高額は2017年3月期にソフトバンクグループ(株)(TSR企業コード:291805027、東京都港区)のニケシュ・アローラ元副社長の103億4,600万円。
 上場企業の大半(2018年実績約2,400社)が決算期は3月だ。そして株主総会は6月下旬に集中する。6月下旬の恒例は、日産自動車(株)(TSR企業コード:350103569、横浜市西区)のカルロス・ゴーン会長(当時)の株主総会での役員報酬額だった。
 そのゴーン会長が11月19日、自らの報酬を過少に申告した疑いがあるとして東京地検特捜部から任意同行を求められ、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の容疑で逮捕された。開示制度が開始された2010年3月期以降、9年連続で有価証券報告書に記載され、日産自動車から受け取った9年間の報酬総額は87億8,200万円。当初、日産自動車の業績V字回復が評価され、ゴーン会長の報酬額は低いとの声も聞かれた。その後、他の自動車メーカーと業績比較されると、今度は「貰い過ぎ」、「高額報酬」と変わっていった。
 グローバル化が進み、“優秀な”外国人役員の報酬が高額化した。ゴーン会長は株主総会で、「グローバルで見た場合、報酬額はそう高くはない」と強弁していた。ゴーン会長の逮捕を受け、長期に権力が集中する弊害も露呈した。会社という組織には、株主や金融機関、取引先、従業員など多くのステークホルダーが存在する。業績への貢献度、コーポレートガバナンス、コンプライアンスのあり方など、様々な角度から報酬額の妥当性への説明責任も求められている。
 2018年の日産自動車の有価証券報告書に記載されるゴーン氏の報酬金額は・・・。

有価証券報告書記載のゴーン会長の役員報酬

上場企業の不適切会計は依然として高水準

 2018年の上場企業の「不適切会計」は、1月1日~11月16日で40社を超えた。2017年(53社)を下回るが、高水準であることに変わりはない。
 2018年1月に不適切会計を開示した愛知県三河地域を地盤とする中堅食品スーパーの(株)ドミー(TSR企業コード:400215950、愛知県)は、3月27日付で上場廃止となった。ドミーは2018年1月、店舗の固定資産の減損処理方法で仕入先からのリベートや協賛金を不適切に傾斜配賦していた不正会計の疑いが発覚した。第三者委員会の調査でも全容が判明せず、新たに減損懸念のある店舖で損益操作による不正なども判明。2018年5月期第2四半期(2017年6~11月期)報告書が提出できなくなった。不正会計による突然の上場廃止で、ドミーの株主や取引先、社員などステークホルダーに動揺が走った。
 不適切会計が増えている背景の一つに、上場企業の増加がある。上場企業は2008年度から2017年度までの10年間で約1,200社増えた。さらに、経営側に時価会計や連結会計など厳格な会計知識が欠如し、現場も知識不足で適切な対応をできず会計処理を誤る事例が散見される。事業のグローバル化にガバナンスが機能せず、体制整備が追い付かない企業個々の問題でもあるが、急速な会計処理の高度化、専門知識を備えた現場の人手不足も指摘ささる。こうした根本的な問題を解決しない限り、今後も不適切会計が減ることは考えにくい。
 不適切会計が発覚すると、信用失墜に加え、過去に遡る決算訂正、第三者委員会の設置など業務への悪影響は計り知れない。株主や取引先の眼差しが厳しくなり、信頼を取り戻すには多くの時間が必要になる。不適切会計を生み出さない体制構築がどの企業も求められている。

不適切会計

倒産は底打ちから増勢へ

 2018年の企業倒産は、1-10月累計で6,895件(前年同期比1.9%減)、負債総額は1兆2,823億9,800万円(同51.1%減)だった。年間では2017年(8,405件)に続き4年連続の8,000件台で、バブル期の1990年(6,468件)に次ぐ低水準が見込まれる。
 企業倒産は一進一退を繰り返している。だが、後半の減少幅は微減で、底打ちから増加に転じる兆しを示した。
 西日本豪雨や北海道胆振東部地震など、大規模な自然災害の影響は、時間をかけて広範囲に広がっていく。今後、被災地以外への影響が懸念される。また、どの地域でも消費者に近い業種ほど倒産が増え、消費者の支出抑制の動きが鮮明になっている。
 こうしたなか、多くのオーナーが被害を受けたシェアハウスのスマートデイズ(4月、負債60億3,500万円、東京都、民事再生→破産)、約3万3,700人の被害者を生んだ食品通信販売のケフィア事業振興会(9月、負債1,001億9,400万円、東京都、破産)など、BtoCの大型倒産が世相を反映した。
 一方、水面下では中小企業金融円滑法が終了後も、金融機関がリスケ(返済猶予)要請に弾力的に応じ、国や自治体も各種制度融資を拡充。多元的な経営支援で中小企業の資金繰りを下支えした。
 2019年10月、消費税率が10%に引き上げられる。初めて軽減税率が導入されるが、過去の消費税率引き上げでみる限り、一時的にせよマイナス成長は避けられない。10月にTSRが実施した「消費増税に関するアンケート」調査でも、「景気が悪くなる」が約6割に達し、中小企業ほど増税を深刻に受け止めている。消費税率の引き上げと企業倒産の動きをみると、約半年から1年ほどのタイムラグが生じており、注意を怠れない。2018年は様々なリスクが顕在化した。
   こうした企業リスクの克服は容易ではない。企業倒産は低水準だったが、消費者を巻き込んだ大型倒産、事業性評価と金融機関の選別強化を類推させる上場企業の倒産、消費税率引き上げの影響が危惧される小売業、サービス業の苦境。2018年は様々な課題を浮き彫りにした一年だった。2019年はその課題に答えを導き出す一年になりそうだ。

 (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2018年12月6日号掲載予定「2018年を振り返って(下)」を再編集)

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