悪の秘密結社、事業拡大へ

「誰もやっていないことをやりたい」

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関かおり

共同通信

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2013年入社。名古屋支社、静岡支局、浜松分室を経て47ニュース編集部に。将来の夢は忍者。

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ヒーローショーの一場面

 ヒーローショーの興行を担い、悪役としてショーにも出演する〝怪人〟たちの会社が福岡市にある。その名も「悪の秘密結社」(同市中央区)。悪の組織らしく世界征服をもくろんでいるのか、最近は事業拡大に向けて福岡を飛び出し、全国に活動の場を広げている。怪人を率いるのは笹井浩生社長(29)。「まだ誰もやっていないことをやりたい」と意気込んでいる。

 全国のアクションチームと提携して、各地のヒーローやゆるキャラのショーの興行を担う。自社のキャラクターも悪役としてステージ上で戦い、笹井さん自身が出演することもある。現在は30体以上の怪人を取りそろえており、中でも創業当時から同社の看板怪人となっている「ヤバイ仮面」は、固定ファンがつくほどの人気だ。悪役らしからぬスマートなフォルムのスーツや、気分に合わせてころころと表情が変わる画面付きの目が特徴。今年10月には大手ゲーム会社が制作するロールプレイングゲーム(RPG)のキャラクターとしてもデビューした。

 2016年創業。なかなか軌道に乗らず、業績は低迷が続いていたが、今年1月に人気番組に取り上げられたことで成長軌道に乗った。

福岡を飛び出した笹井さん

 笹井さんは「あれがなければつぶれてたんじゃないですかね」と振り返る。それほどぎりぎりの状態だったが、一度魅了されたヒーローショーの世界からは抜けられなかった。

 仮面ライダーが大好きだった少年時代、家庭の事情で「父親」という存在を好意的に受け入れられなかった。一方でシリーズの中で描かれた少年の成長物語に強く惹かれた。「あの物語が父親代わりだった」。変身ベルトはもちろん全部集め、すっかり特撮オタクとなり、高校生のときにヒーローショーのアルバイトを始めた。

 しかし、憧れを抱いて飛び込んだヒーローショーの世界は過酷だった。「自分にはアクションの才覚も能力もない」。そう思い知らされた。ただ一方で「違う人間になれる」「普段素通りする子どもたちが集まってきてくれる」と楽しみも見つかり、嫌いになりきれずに約3年続けた。

 才覚のない自分が、ヒーローショーの世界で生き残るにはどうしたらいいか。笹井さんは発想を転換した。「才能がある人のようになるのではなくて、今ないものを作ろう」。悪役だけを売りとした会社がないこと、表情の変わる怪人がいないこと…。「ない」という要素を詰め込んで、会社を設立した。

 創業当時から大事にしているのは「ヒーローファースト」の精神。怪人やスタッフにも「ヒーローに失礼がないように」と指導を徹底している。「悪役だったら転んでも笑ってもらえるが、ヒーローはちょっとつまずくことさえ許されない」。ヒーローショーに夢中になる子どもの視点に立って考え、ショーの運営ではヒーローへの細かいサポートや配慮を心がけている。自社の怪人の名前にもその精神が現れている。「なんとかかんとかセイバーとか、レンジャーとか、かっこいい名前はヒーローのもの。悪役の名前なんか覚えてもらわなくてもいい」。新しい怪人を生み出した際には、最初の印象を基にほんの少しの会話で名前を決める「30秒ルール」を使う。看板怪人の「ヤバイ仮面」も、その名の由来は「かっこわるいから」。

 これまでは自社のキャラクターが出演する事業が中心だった。今後は培ってきた興行のノウハウを生かし、他社のキャラクターショーを制作する事業にも乗り出す。笹井さんは「東京での暗躍の機会が増えている」と話しており、怪人が首都圏に攻め込んでくる日も近いかもしれない。

(了)