広島の強打者・新井貴浩を作ったもの―「練習は嘘つかない。やったもん勝ち」

自身の若手時代の猛練習について語った新井貴浩氏【写真提供:DAZN「Home of Baseball」】

広島の練習は「とにかくキツかった」、両親に感謝「丈夫な体に産んで育ててくれた」

 2018年シーズンを最後に、20年間の現役生活にピリオドを打った広島の新井貴浩氏。DAZNでは、オフの新番組「Home of Baseball」の配信を2日から開始し、その中で新井氏へのロングインタビューを行った。2016年に現役引退した黒田博樹氏とともに、広島のレジェンドとして巨人に続く2球団目となるセ・リーグ3連覇に貢献した新井氏が、カープへのチーム愛、選手たちとの絆、自らの歩んできた道について語り尽くした。最終回は20年の現役生活を振り返り、自分を支えてきたものについて語っている。

 新井氏は決してエリートコースを歩んできたスラッガーではない。プロ入りも1998年ドラフト6位と下位指名。東都大学リーグの名門・駒大の出身で、リーグの打点王・ベストナインに選ばれた経験はあるものの、大学時代の本塁打はわずか2本。広島工高時代も甲子園には縁がなかった。カープ名物の猛練習で鍛え上げられ、プロ野球でも屈指の強打者になった努力の人だ。

「まずはやっぱり両親ですよね。丈夫な体に産んで、育ててくれましたから。僕なんか特にセンスがあったわけでもないですし、それがこうしてできたっていうのもカープの厳しい練習に耐えられた体があってこそなので、やっぱり両親に一番感謝しています」

 プロでの練習は、キツく苦しいということしかなかった。

「(練習は)全部キツいですね。もう入団して何年かは本当に苦しかった。どうやって手を抜こうかとばかり考えてましたからね。キャンプはキャンプでキツいですし、シーズン入っても『お前らなんかにシーズンもクソもない、もう1年中キャンプだ』ってずっとキャンプみたいなことやらされてましたから。とにかくキツかったです」

 自主性も何もない、ついていくのが精いっぱいの猛練習。考える余裕などなかったが、それが身になったからこそ今の自分がある。だから、新井氏は「やらされる練習でも身になるものはある」という、独特の考えを持っている。

「やらされる練習でも身につくものはある。やったもの勝ちの世界」

「確かに、間違った方向で同じことを繰り返したら、回り道が長くなるかも知れないけれども、最終的にはやったもの勝ちなんですよね。練習は嘘をつかないですし、やったもん勝ちですよね。何もしなくて休んでてうまくなるような甘いものじゃないので、やればやるだけ生き残っていく世界でしょうね」

 何も考えず、がむしゃらに練習することは、多少方向性が間違っていたとしても、決して無駄にならない。身体を動かさないと、身につくことはない――という論理だ。自分をいじめ抜いてこそ、得られるものがあるというのは、猛練習でキャリアを作ってきた新井氏だからこそ言える言葉だ。

 だから、ユニホームを脱いだ今でも、まだ引退したという実感はないという。

「まだ(現役生活が)終わったばかりなんで、実感というのはないですね。2月1日、キャンプが始まった時に、自分がユニフォーム着てないぐらいから、だんだん実感するんじゃないでしょうかね、いろいろなことを」

 ユニホームを泥にまみれさせる練習こそが、新井氏の現役選手としてのアイデンティティをもっとも見せる場所。来年2月1日、1年間を戦い抜くための練習をする春季キャンプに参加することがもうないと再認識した時、初めて引退したという実感がわくだろうと新井氏自身が感じている。

「広島に戻ってよかった」「感謝の気持ちしかない」

 広島だけでなく、フリーエージェント(FA)で阪神に移籍し、伝統球団で中軸を担う重圧も経験してきた。そして、戻ることはないと思っていた広島に戻り、球団史上初のセ・リーグ3連覇という結果を残して選手生活を終えた。

「僕は1回違うチームに出ていますし、それでも帰って来いって球団に言っていただいて、また帰ったら帰ったであんなすごい大歓声で迎え入れてくれたので、本当に『ありがとうございます』という感謝の気持ちしかないですよね。『帰って来い』って言っていただいた時は嬉しかったですし、びっくりしましたし、帰りたいって気持ちはあったんですけれども、実際すごく悩んでたんですよね。今さらのこのこ帰れないっていう気持ちがあって、出る時はもう二度と戻れないと思って覚悟決めて出て行きましたし、そういった中で迎え入れてくれて、本当に戻ってよかったなという気持ちですね」

 だから、日本シリーズでソフトバンクに敗れた後も、悔しさよりすがすがしい気持ちの方が強かったという。

「悔しさがないといったら嘘になるんですけれども、それ以上にありがとうございましたという気持ちの方が大きいですね。最後の年にまた優勝させてもらって、また引退発表した後でも、後輩たちがちょっとでも長く新井さんとやりたいとたくさん言ってくれたので、本当に嬉しかったですね」

 背負ったものをおろした今は、まず家族と濃密な時間を過ごしたいという。

「(先のことは)僕も分からないですよね。どういう風になるのかは、まだ終わったばかりですしね……。僕、あまり趣味がある方じゃないので、とにかくもうのんびりしたいですよね。あとは家族ですよね。4年間単身でしたので、家族との時間を大切にしたいと思っています」

 今は20年間走り続けた疲れをとり、その後は外から野球を見つめた上で、いずれはカープを率いる将に……。一度は他球団に出た新井氏を温かく受け入れてくれたファンは、いつかグラウンドに戻ってくることを待ち望んでいる。(Full-Count編集部)

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