第8回:AIを使って犯罪をどこまで未然に防げるか?

米国だけでなく日本でも取り組み

©株式会社新建新聞社

トム・クルーズの映画の世界が現実になりつつあります(出典:Flickr)

■マイノリティ・リポートがAIで現実のものに?

2002年に公開されたトム・クルーズ主演のSF映画「マイノリティ・リポート」には、犯罪を未然に防ぐために選ばれたプリコグと呼ばれる3人の予知能力者が登場します。3人はプールのような水面上に横になり、ひたすら犯行時のイメージが現れるのを待つという設定です。当時観たときは非現実的でいかにもSFチックな映画という印象でしたが、今日、まさにAIが予知能力者の代わりを果たせそうな勢いであることに、筆者は驚かざるを得ません。

AIで未然に犯罪を防止するとはどういうことでしょうか。これは、法に触れるような行為にはある種のパターンがあって、そうしたデータを可能な限りたくさん蓄積することによって事前に怪しい行動を察知できるという考え方に基づいています。たとえ膨大かつ有用なデータが集まったとしても、昔のコンピュータでは処理しきれませんでしたが、今日ではAIによる機械学習の登場でそれが可能になったというわけです。

犯罪の多い米国などでは、この種のAIの開発や導入に積極的であることは言うまでもありません。警察による犯罪捜査や分析、救急車や消防車の出動はもとより、傷害事件の被害者などは治療や入院で医療負担が増えるし、重大犯罪の場合は財産価値が減少したり、政府や企業などはセキュリティをできる限り強化しないと枕を高くして寝ることはできないでしょう。トータルな目で見れば、政府も企業も犯罪のために膨大なコスト負担を強いられているのです。ある専門家は米国のGDPのおよそ2%を犯罪関係のコストが占めていると述べているほどです。

AIや機械学習に関するマーケティング調査を行っている「TechEmergence」に掲載された記事の一部を参考にしてみましょう。
https://www.techemergence.com/ai-crime-prevention-5-current-applications/

■銃の発砲現場をすばやく特定

今や歯止めが利かなくなったのではと思えるほど、米国内では銃を使った犯罪が多発しています。この原稿を書いている最中にも、米東部ペンシルベニア州ピッツバーグ市のユダヤ教礼拝所で白人の男が銃を発砲し、礼拝に来ていた信者や警察官を含め、多くの人が死傷するという悲惨な事件が起こりました。こうした状況を背景に、銃犯罪抑止のためのAIの開発や導入に拍車がかかっているという事実は、アメリカの社会ならではのことかもしれません。

例えば、ShotSpotterという会社が開発したAIソフトウェアは、高い精度で銃の発砲を検知できるもので、すでに14件の発砲事件を特定したという実績があります。あるケースでは、警察は近くの公園で発砲されたと誤認しましたが、実際は2ブロック離れた場所で起こったことをこのソフトウェアが特定したのです。このケースでは警察が犯行現場に駆けつけ、そこに残されていた手がかりを発見し、まだ周辺にいた目撃者たちに聞き込みができるほどの時間的な余裕があったというから驚きです(同社はこの迅速な対応で2名の容疑者が逮捕されたと伝えています)。

ShotSpotter社では、いずれニューヨークやシカゴ、サンディエゴなど90都市にこのAIソフトウェアを展開する予定であるとのこと。同社のクライアントの大半は米国内ですが、新たに南アフリカのケープタウンが顧客に登録されたといいます。しかし日本としては、なるべくこの種のAIのお世話にならないことを祈るばかりです。

■犯罪の発生可能性を推測するAI

防犯カメラには賛否両論があることをご存知でしょう。犯罪の防止に大変役立つという意見の人。いや犯罪防止には役立っていない、事件が起きたあとに警察の追跡や証拠の確認のために役立っているだけだという意見の人。これはコンピューターを用いた犯罪抑止技術についても言えることです。社会の最終目的は、単に犯人をすばやく捕まえるだけでなく、事件や事故そのものを顕在化させないことなのです。ではAIには、冒頭に述べたような犯罪を未然に防ぐ能力など本当にあるのでしょうか。あるいはこれもまた、単なる"神話"で終わってしまうのでしょうか。

否、この技術はすでに実用化されています。例えば米国ではPredpol社がプレドポルと呼ばれる予測型犯罪防御システムを開発し、行政などに提供しています。機械学習とビッグデータを組み合わせ、過去の犯罪に関するデータを分析することにより、今後いつどこで犯罪が起こる可能性があるのかを予測させるシステムです。あるタイプの犯罪は似たような時間と場所で起こる傾向があるため、過去のデータからこうした特徴を導き出せるようになるといいます。

一例を挙げると「ある地域で強盗が頻発すると、近い将来、その周辺地域でも強盗が頻発する可能性がある」のです。Predpol社はこの考え方をETASモデルと呼んでいるそうで、どうもこのモデル、もともとは地震活動の変化から、統計学的に異常な振る舞いを検出して地震の短期予測や余震の発生確率の算定などに用いるために考案されたものらしいのです。地震学が犯罪予測に役立つなんて意外でした。

米国における成功例としては、2013年1月にこのシステムをワシントン州のタコマ市に導入したところ、2年間で住宅地の強盗事件が22%減少したと伝えています。実は日本でも、2016年に京都府警が「予測型犯罪防御システム」を導入し、一定の成果を上げたとのニュースが各紙に出ていましたので、もはやあまり珍しいAIではなくなっているのかもしれません。

(了)