「サッカーコラム」J1磐田、悲劇的敗戦で“入れ替え戦”へ

史上最も激しい残留争いに決着

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川崎に敗れてプレーオフに回ることが決まり、さえない表情の(左から)大井、大南ら磐田イレブン=等々力

 「勝ち点では上にいるけれど、この得失点(―12)は結構危険だよね」

 J1の第33節が終わった11月24日。あるチームについて記者室でこのような話が出ていた。そのチームは、磐田。同節終了時点で13位に付けているとは言え、得失点差は残留に巻き込まれたチームの中で最も悪い。続くのは同16位で崖っぷちにいるとされていた名古屋の「―7」だ。

 もちろん、自力で残留できる立場にあった磐田が最終節で16位まで落ちるには、複数の条件が重なる必要があった。それは、有利な位置にいるということを意味している。それにもかかわらず、多くの記者が冒頭の言葉を口にしたのは、まったくの偶然ではないだろう。そして、今シーズンを締めくくる第34節が行われた12月1日。磐田の悲劇的ともいえる敗戦を、リーグ2連覇を果たした川崎のホーム・等々力競技場で目撃することになった。

 J1は2005年から18チームが34試合を行う方式を採用している。それから14シーズン、残留争いがこんなに混戦になったのは初めてだ。昨季までJ2への自動降格は下位3チームだった。しかし、今シーズンからは自動降格は17位と18位の2チームで、16位のチームは「参入プレーオフ」を勝ち上がったJ2のチームと入れ替え戦に当たる「決定戦」を戦うことになった。

 第33節までに長崎と柏のJ2降格が決定。最終節を前に12位から16位までの5チームが勝ち点差「1」の中にひしめく大混戦となった。勝ち点41は横浜M(12位)と磐田(13位)。同40で湘南(14位)、鳥栖(15位)、名古屋(16位)が続く。注目されるのは勝ち点が40を越えているチームが残留争いに巻き込まれているということだ。ちなみに昨シーズン16位の甲府は32。最も多かったのは2012年の神戸の39で、勝ち点35を超えたのは昨年までの13シーズンで7チームだけだった。

 磐田がたとえ敗れたとしても、勝ち点40同士の湘南と名古屋の試合で勝敗がつけば磐田は残留できた。同じく40の鳥栖が鹿島に敗れても同様の結果だった。それよりも何よりも、磐田が川崎戦で引き分け以上なら文句なく自力で残留を成し遂げられた。

 とはいえ、客観的に見れば磐田が川崎に敗れると見ていた人は多かったのではないだろうか。根拠は単純にチーム力の差だ。最終的にリーグ最多得点と最少失点(57得点、27失点)の二つの記録を成し遂げた川崎。現在、J1で最も高い実力を誇るチームが非常に高いモチベーションで最終戦に臨んだ。なぜなら川崎はリーグ優勝を決めてから、本拠の等々力で戦うのはこの試合が初めてとなる。選手たちは地元のファンに自分たちの実力を、改めて示す必要があったからだ。

 他会場の状況を確認しながらの試合。湘南が前半に2点をリードするも、後半に名古屋に追いつかれるという磐田としては最も嫌な状況となった。それでも磐田は後半33分に、大久保嘉人が待望の先制点をヘディングで奪う。

 1点のアドバンテージを得たが、磐田の時間は長くは続かなかった。後半38分に右CKからDF奈良竜樹にヘディングで決められて1―1の同点。それでもまだ引き分けで逃げ切れば残留を決められる。だからこそ、名波浩監督もセオリー通りの采配をした。守備力に信頼を置けるムサエフや桜内渚を投入したのだ。ただ、残念なことに今季の磐田は本気で勝利をつかみに来るチャンピオンチームを相手に、試合の結果をコントロールできるほど成熟はしていなかった。

 湘南対名古屋、そして鳥栖の試合も引き分けに終わった。唯一、アディショナルタイム4分の磐田の試合だけが長引く。手元の時計ではすでに3分30秒。終了まで残り30秒を切った時点で、磐田にとっての悪夢が訪れた。川崎の家長昭博が左サイドをドリブルで仕掛け、グラウンダーのクロス。これを大井健太郎がオウンゴールして、磐田は土壇場で勝ち点1を逃すこととなった。ピッチにひざまずき頭を抱える名波監督。他会場の結果を知らぬ選手たちは、その姿を見てすべてを悟ったはずだ。

 「敗戦の後に話すほど、まだまだ人間ができていない」。記者会見でそう話した名波監督だが、すべてを失ったわけではない。「通常でしたら3クラブが自動降格だったんで、今シーズンのレギュレーションに助けられた」と前を向いた。そう、まだV東京との入れ替え戦が残っているのだ。

 相手がJ2で6位のチームとはいえ、そう簡単にはいかないだろう。けがが癒えて、川崎戦で5試合ぶりの先発に復帰した中村俊輔は冷静に次のように語った。

 「ちゃんとした分析やプランが必要だと思う。(磐田は)自分たちのサッカーをやれば勝てるというレベルじゃないし、だったらこんな順位にならない」

 リーグ戦の結果は、1試合1試合の積み重ねの上に表れることを誰よりも理解している。

 12月8日の大一番。磐田はホームで戦うというアドバンテージを持つ。一方で東京Vは2試合続けてアウェーながら1―0の最少得点差で勝ち上がってきた。通常ならJ1チームが圧倒的に有利なのだろうが、今回だけは予想がつかない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。