WEC:2020/21年導入の“ハイパーカー”技術規定を発表。量産パワートレインの搭載が必須に

 12月5日、FIA国際自動車連盟はWEC世界耐久選手権の2020/2021年シーズンから導入されるテクニカルレギュレーションを発表した。この中で現行のLMP1に代わりシリーズ最高峰クラスに掲げられる“ハイパーカー規定”の詳細が明らかにされている。

 2018年6月のル・マン24時間レースでその構想が明らかにされた“ハイパーカー規定”は、市販車ルックのマシンを使用するとともに参戦コストを抑え、より多くのマニュファクチャラーをWECならびにル・マンに呼び込むことを狙った新規定だ。

 今回発表された新レギュレーションに記載されたマシン寸法の最大値は全長5000mm、全幅2000mm、全高1150mm、ホイールベース3150mmといずれも現行のLMP1規定と比べて上限値が拡大された。また、最低重量も現行の980kgから1040kgに変更されている。

 ガソリンエンジンとMGU-K(運動エネルギー回生システム)からなるパワートレインは量産ベースであることが必須に。同時にメーカーは参戦初年度のシーズン終了時までにエンジンとハイブリッドシステムを最低25基生産しなければならないとされた。

 さらに、規定ではこれらパワートレインを搭載した同一シリーズ生産車を翌年度末までに100台製造する必要があるとされている。

 シリーズが規定するパワートレインの最大出力は720kW(約950馬力)となっており、エンジンで520kW、車両フロントへの搭載が義務付けられるMGU-Kから200kWを得る仕組みだ。エンジンは自然吸気とターボの両方が許可され、排気量にも制限がない。それぞれの構成物の最低重量はエンジンが180kg、MGU-Kは50kg、バッテリー(ES)が70kgとなっている。

 以上の規定を満たすパワートレインの製造者は、カスタマーに対してシステムを供給することが許されるが、コスト削減を図るFIAはこれにコストキャップを導入。1基あたりの価格を300万ユーロ(約3億8000万円)とした上で、メーカーが承認を得ずに供給できるのは2チームまでとしている。

■LMP1では禁止されている可動空力パーツを解禁

FIAが公開したアストンマーチンのハイパーカーイメージ

 5シーズンに渡って採用されるハイパーカー規定において、マニュファクチャラーには“エボリューションキット”の投入が許可されるという。

 このジョーカーは2025年までに計5回に限定されるが、各メーカーはシーズンごとに改良を加えることで2020年から5年間、ニューモデルを導入することなくシリーズを戦うことが可能となる。

 また、FIAはハイパーカー規定の導入にあわせて2020年から可動式の空力パーツの導入を許可した。

 現行のLMP1カーでは禁止されているこの装置は、フロントとリヤにそれぞれ設置することができる。しかし、その利用には制限がかけられるとされ、可動パーツの作動位置は2カ所とされた上で固定位置の変更はドライバーがコクピットから行わなければならない。

■2019/2020年シーズンから給油中のピット作業が禁止に

 FIAとACOフランス西部自動車クラブは、ハイパーカーに関するテクニカルレギュレーションを発表すると同時に、2020/21年のスポーティングレギュレーションを公表。シリーズの最高峰クラスにサクセスバラスト制を採用することを明らかにした。

 トップクラスの競争をより激しいものとするため、FIAとACOは2019年からELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズのGTEクラスに導入されるサクセスバラストを導入する。

 ツーリングカーシリーズやGT3カテゴリーで運用実績のあるこのシステムを、ハイパーカーではシリーズポイントを1ポイント得るごとに0.5kgのウエイトが加算されるかたちで運用。第2戦以降最大50kgまでウエイトが追加される。

 この他、FIAは2018/2019年の“スーパーシーズン”で解禁された給油中のピット作業を2019/2020年シーズンにはふたたび禁止する旨を明らかにした。

 給油中のピット作業はこれまで、安全性を理由に禁止されてきたが、スーパーシーズンではピット作業の競争をフィーチャーさせる目的で解禁した。しかし、これによって戦略面の幅が狭まり、耐久レースとしての魅力が低下したとの声が挙がっていた。

東京オートサロン2018に続き同年のル・マンで披露されたGRスーパースポーツコンセプト

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