強烈な個性のぶつかり合い KAAT神奈川芸術劇場「Is it worth to save us?」

 KAAT神奈川芸術劇場の「ダンスシリーズ」の一環で上演された、伊藤郁女(かおり)と森山未來による「Is it worth to save us?」。三島由紀夫の長編小説「美しい星」から着想を得た伊藤が演出を手掛け、森山と共同で振りを付けた。欧州を拠点に活動する伊藤と、踊りに芝居にと多彩な活躍を続ける森山のタッグに期待が高まらないわけがない。

 開演前から斬新だった。劇場に入り座席に向かうと、二人は既に幕の開いた舞台にいた。観客におどけた表情を見せうろうろする伊藤と、一輪の花を手にあおむけに横たわる森山。

 程なく、二人が幼少期の記憶を語り始める。伊藤は後にそれを「逃げ場を得るためにどうしてもつくってしまう記憶」とも言い換えた。「人と違う感性」を持つが故に創り上げられた独特の世界に、気が付けばすっかり引き込まれていた。

 静と動が際立った二人の身体表現。触れそうで触れない絶妙な距離感も心地よい緊張感をにじませた。伊藤のしなやかな身のこなしに、暗闇に浮かび上がる森山の肉体美。舞台床に足がこすれる音と照明に照らされながら美しく飛び散る汗。「未來君のきれいな踊りを壊したい。『生』な感じを出したい」と伊藤が望んだように、強烈な個性が生々しくぶつかり合う空間だった。

 やがてマイクスタンドを置いて歌を披露したり、クリームを互いの顔面にぶつけ合ったりと、予想を超える展開を見せる。タイトルにも通じる「ここまでぐちゃぐちゃな私たちを救ってくれますか」との問いを、観客に投げ掛けたのだと伊藤は言う。

 一流ダンサーによるハイレベルな表現と奇抜な演出との融合に圧倒されつつ、胸のつかえがふっと軽くなるような、そんな不思議な心地を閉幕後に覚えた。鳴りやまない拍手が、伊藤の問いに対する答えだったと思う。11月1日の回を鑑賞。

「Is it worth to save us?」の一場面から(撮影・bozzo、KAAT提供)

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