急いては事を仕損じる

 「事が込み入って、扱うのが面倒なさま」と手元の辞典は「ややこしい」の語義を説明している。全くもう、面倒だな。安倍晋三首相の本音はきっとそんなところだろう。国会答弁に臨む前に「ややこしい質問を受けるという状況だ」と語った▲確かに、事は大いに込み入っているが、そうさせたのは他ならぬ政府だろう。失踪した技能実習生に国が聞き取りをしたところ、7割近くで最低賃金を下回っていた-そんな実態を突き止めたと、野党は政府に詰め寄った。国はこれを明らかにしていない▲昨年までの3年間、実習生69人が死亡していたことも分かり、野党の追及は激しさを増す。外国人労働者の受け入れ拡大に向けた法案よりも前に、実習生の実態にこそ向き合うべき、と迫れば、それとこれとは話が別だ、と山下貴司法相はかわす▲法案を巡っては、どの分野にどれくらい人を受け入れるか、どんな人に新しい在留資格を与えるか-と課題は山とあっても、人手不足への対応に気ぜわしい政府は立ち止まるそぶりを見せない▲攻防は大詰めとなり、与党はきょう、法案の成立を強行する構え。「出たとこ勝負」の批判は脇にやられて▲急ごしらえの制度がきちんと機能するとはどうも思えない。「ややこしい質問」をやり過ごしても、急(せ)いては事を仕損じないか。(徹)

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