【形状記憶・超弾性合金の将来展望】〈形状記憶合金協会・土谷浩一会長に聞く〉医療や動力部品で需要拡大 産学・異分野連携で用途開拓

形状記憶合金協会・土谷浩一 会長

 形状記憶・超弾性合金は熱による復元やゴムのようにしなる特殊な機能を生かし、さまざまな産業分野で応用されてきた。新規用途の開発や新合金の発見などで今後市場の広がりが期待される状況。材料としての将来展望を、形状記憶合金協会の土谷浩一会長(物質・材料研究機構若手国際研究センター長)に聞いた。(古瀬 唯)

――まずは形状記憶・超弾性合金の応用分野や特性について。

 「代表的なニッケルチタンの形状記憶・超弾性合金は日本では1981年に眼鏡向けで初めて採用された。その後はエアコンの部品やブラジャーのワイヤ、携帯電話のアンテナなどさまざまな分野で活躍。現在は血管を内部から拡張するステント向けなど医療関連の需要が主力になっている。ステントでは超弾性を生かして血管内で自ら広がる性質を与えられることが強み。メインとなる分野が変遷しても存在感を保ち続けているのは、形状記憶・超弾性による動きの大きさに加えて耐食性や強度にも優れる特性があるからだ」

――合金種の広がりはいかがですか。

 「加工性が高い銅アルミマンガンの合金は3年ほど前から超弾性特性を生かして巻爪矯正用途で使われ始めている。コスト性に優れる鉄マンガンシリコン合金は復元力を生かしクレーンのレールをつなぐ用途や、制振ダンパーなどで使用されている。さらに最近になってマグネシウム系の形状記憶合金が新たに見い出された。極めて軽い素材特性から航空宇宙分野などでの展開が将来的にありえると思う」

――現在の市場規模と今後の成長についての見方は。

 「素材ベースの市場規模は現在日本国内で約150億円、世界では470億円と言われている。ニッケルチタン合金は今後は中国やインドの経済発展で医療関連の需要拡大が見込まれる。さらに動力部品のアクチュエータ向けも増えている。この用途は通電による自己発熱で発生する復元力を生かしたもの。形状記憶合金のばねがセンサと動力源の二役を担うためモータと比べて小型で軽量。車載分野での採用が本格化すればさらに需要は盛り上がるだろう。他にもさまざまな合金で多彩な新規用途がある。グローバルな市場は今後4~5年で倍増するとの見方もあり、協会としても非常に期待を持っている」

――銅系合金も新たな用途が。

 「銅系合金はこれまで結晶粒界に沿って破断する粒界割れを抑えることが課題だった。だが単結晶の合金を低コストで製造できる技術が開発され、建築分野での可能性が高まった。振動エネルギーの吸収能力が非常に高いので建築物の補強材などにも使えるはずだ。現在は産学連携で実用化に向けた研究開発が進んでいる」

――現在の技術課題やその打開策は。

 「医療関連では長寿命化に合わせてステントが体内に入っている時間が長くなるため、繰り返しの変形への耐久性を高める研究が重要になる。難しい課題だが、生産プロセス改善や合金内部の介在物削減などに産学連携で真剣に取り組んで乗り越えていく必要がある。アクチュエータ向けでは動作精度をさらに高めるため、合金だけでなく通電のタイミングや強さなどを制御する電子回路と合わせた技術開発が重要」

――協会の目的や活動内容については。

 「異分野や産学の連携促進を通じた新規需要発掘や形状記憶・超弾性合金の啓発、人材の育成が我々の存在意義だ。活動としては基礎から応用まで幅広い内容の講習会や少人数で体験的なプログラムを盛り込んだ基礎講座を催しているほか、学術的なシンポジウムなども開催している。交流の機会を設けることで素材メーカーはいっそうの発展が望めるほか、ユーザーは新たな材料で競争力を高められる。また大学などの研究者は違った角度の見方を取り入れた研究テーマを得られる」

――設立から25周年を迎えました。

 「協会に関わって10年ほどになる。活動は非常に有意義だと感じており25周年を迎えられたことは非常に喜ばしい。一方で責任の大きさも感じている。学会や産業界の一線を走ってこられた諸先輩が作ってきた協会を引き継いで、さらに発展させなければという思いを強くしている。今後は産学・異業種に加え行政との関係をさらに強めていきたい」

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