2018年9月中間決算 上場企業「継続企業の前提に関する注記」調査、GC注記・重要事象の記載は過去最少の合計54社

 2018年9月中間決算を発表した3月期決算の上場企業2,435社のうち、GC注記と重要事象を記載した企業数は54社で、これまで最少だった2018年3月期の55社を下回った。
 決算短信で「継続企業の前提に関する注記(ゴーイングコンサーン注記)」(以下、GC注記)を記載した上場企業は21社。前年度本決算(2018年3月期)の19社から2社増えた。
 また、事業継続に重要な疑義を生じさせる事象がある場合に記載する「継続企業に関する重要事象」(以下、重要事象)は33社で、前年度本決算の36社から3社減少した。
 GC注記と重要事象が記載された企業は、リーマン・ショック直後の2009年3月期に過去最多の145社を記録し、その後は減少をたどっている。
 GC注記や重要事象の記載企業は、業績回復が遅れた新興・中堅企業が大半を占める。ただ、業界シェアの大きい企業や知名度の高い名門企業でも、大幅損失などを理由に注記を記載した。上場企業でも、景気拡大の恩恵を受ける企業とそうでない企業の二極化が鮮明になっている。

  • ※本調査は、全証券取引所に株式上場する3月期決算企業を対象に、2018年9月中間期の決算短信で12月6日までに発表された「GC注記」及び「重要事象」を記載した企業の内容、業種を分析した。

GC注記には千代田化工建設、パイオニア、重要事象の記載は旧:三井造船も

 2018年9月中間決算でGC注記を記載したのは21社で、前年度本決算(19社)から2社増加した。前年度本決算の19社のうち、6月に会社更生法を申請した日本海洋掘削(株)(東証1部)と、証券取引等監視委員会の強制調査を発端に有価証券報告書の提出見込みが立たず上場廃止となった(株)ソルガム・ジャパン・ホールディングス(JASDAQ)の2社が消えた。
 一方、前年度本決算にはなかったが、当中間期にGC注記が記載された上場企業は4社あった。プラント工事大手の千代田化工建設(株)(東証1部)は米国LNGプロジェクトの工事コストの大幅な増加で損失が発生。アジア系ファンドとのスポンサー契約の動向に注目が集まるパイオニア(株)(東証1部)は、今期の第1四半期決算に引き続き、中間決算でもGC注記を記載した。
 GCに至らないまでも事業継続に重要な疑義を生じさせる事象がある場合に記載する「継続企業に関する重要事象」(以下、重要事象)を記載したのは33社。前年度本決算(36社)から3社減少した。今年4月に社名を変更した造船大手の(株)三井E&Sホールディングス(旧:三井造船(株)、東証1部)、自動車向けアルミコンデンサーで世界的なシェアを誇る日本ケミコン(株)(東証1部)は、金融機関との借入契約の財務制限条項に抵触し、初めて重要事象を記載した。

3月期決算企業 GC・重要事象件数推移

GC注記・重要事象記載 本業不振が8割

 GC注記・重要事象の記載企業社を理由別に分類すると、44社(構成比81.4%)が重要・継続的な売上減や損失計上、営業キャッシュ・フローのマイナスなどの「本業不振」を理由としている。次いで「再建計画遂行中・その他」が6社(同11.1%)、「債務超過」と「財務制限条項に抵触」が5社(同9.2%)と続く。
 売上や損益の悪化など、本業面で苦戦が続く企業が大半を占めている。
 債務超過は事業再生ADRを通じた再建に取り組んでいる田淵電機(株)(東証1部)など5社。債務超過は1年以内に解消できない場合、原則として上場廃止になるが、田淵電機は今後スポンサー企業を割当先とした資本増強を図り、債務超過を解消する見込み。

  • ※注記理由は重複記載のため、構成比の合計は100%とならない。
GC注記・重要事象記載企業 理由別"

業種別では製造業が約5割 新興市場と中堅規模が中心

 GC注記・重要事象の記載企業54社の業種別は、製造業が28社(構成比51.8%)と半数を占め、大手の下請けメーカーなどの中堅規模が多くを占める。上場区分別では、JASDAQ、マザーズ、名証セントレックスの新興市場が25社(同46.2%)と、ほぼ半数を占めた。事業基盤がぜい弱なベンチャーなどの新興企業、景気拡大の波に乗れない中堅企業が多いのが特徴といえる。


 上場企業の倒産はリーマン・ショックの2008年の33件をピークに減少をたどり、2018年は12月6日時点で1件にとどまっている。倒産の減少とともにGC注記と重要事象の記載企業は減少し、2018年9月中間期は集計開始以来、最少となった。
 この背景には、大手の輸出企業を中心に上場企業の業績が好調な点が背景にある。ただ、一方で不振から抜け出せず、倒産や上場基準に抵触し上場廃止となったケースも散見され、業績悪化から市場退場までのサイクルが早まっているとみることもできる。6月に会社更生法の適用を申請した日本海洋掘削は2018年3月期決算で初めてGC注記を記載したが、わずか3カ月で破たんに至った。
 上場企業の倒産は落ち着いて推移しているが、格差拡大や二極化はむしろ進行しており、引き続きGC注記企業や重要事象の記載企業の動向に注目が集まっている。

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