「メアリーの総て」メアリーが自身の絶望と孤独を極限まで見つめた末に生み出された美しい魂の物語

ゴシック小説の古典的名作であり、人間の苦悩と絶望をSFとも言える手法で描いた『フランケンシュタイン』がわずか18歳の女性作家によって生み出されたという史実は意外と知られていない。19世紀のイギリスで小説家を夢見る少女メアリーは、ロマン派の詩人パーシー・シェリーと激しい恋に落ち、情熱に任せて駆け落ちするが、数々の不幸に見舞われてしまう。失意のメアリーは、スキャンダルにまみれた詩人バイロンの別荘に身を寄せ、彼から「それぞれ1つずつ怪奇譚を書こう」と提案された時に『フランケンシュタイン』の物語を構想した。死人を甦らせるというアイデアと怪物を待ち受ける悲劇は、メアリーが自身の絶望と孤独を極限まで見つめた末に生み出された美しい魂の物語だったのだ。物語の序盤、メアリーが「私が受け継いだのは魂の炎。誰にもそれは消せない」と言うシーンがあるが、全編に渡って彼女の強い意思が貫かれている。(加藤梅造)

© 有限会社ルーフトップ