【ビギナーの素朴なギモン】「冬でも登山ってできる?」現役ガイドに聞いてきた! 初心者にとって、冬の登山はあまりにハードルが高いと思ってしまいませんか? そこで、初心者でも冬の登山はできるのか、また、その際の注意点などを現役登山ガイドの栗田朋恵さんに教えてもらいました。

初心者でも、冬の山に登っていいの?

冬の登山と言えば、写真のように雪の中を特別な装備で登るイメージがありませんか? 一般的には登山って、春から夏の暖かい季節にするものだと思ってしまうのですが、私たちビギナーでも冬の登山ってできるのでしょうか。 今回はそんな素朴なギモンを、現役登山ガイドの栗田朋恵さんに教えてもらいました。

栗田さん

行き先を適切に選ぶことで、初心者でも冬の山を楽しめます!冬でも登れる山はたくさんありますよ。

ライター
相馬

私は、登山と言えば春から初秋くらいまでしかやりませんでした。最近登った山と言えば高尾山とか、三浦半島の大楠山とか、ほとんど低山だけなのですが…。

標高の低い山は冬ほど快適に歩ける!

栗田さん

まさに標高の低い山こそ、冬のほうが快適に歩けるくらいです。真夏は気温が高くなるので汗だくになってしまいますが、逆に冬はあまり地上と変わらない気温なので、寒すぎず快適に歩けるんです。

ライター
相馬

確かに、標高が100メートル上がると気温が1度下がると聞いたことがあります。標高300メートルくらいの低山なら、地上と比べて3度くらいしか気温が下がらないということですね。

栗田さん

行き先選びでまず気にすべきなのは、積雪があるかどうか。それを考えると、標高が低いほど気温が予測しやすく、雪があまり降らないので標高は1つの目安になります。

(仏果山の頂上 関東ふれあいの道)

ライター
相馬

標高何メートル以下なら大丈夫という基準はあるのですか?

栗田さん

それは一概には言えません。地上でも数年に1度大雪が降ることがあるように、標高が低くても絶対に雪が降らないとは言い切れないです。

ライター
相馬

じゃあ、どうすれば…。

栗田さん

積雪があるかどうかは、その土地の観光協会やガイド協会などに事前に電話をして聞いてみるのが確実です。また、「自然の中を歩く」のが目的なら、里山や自然道など、普段暮らしている場所と標高の変わらない場所を選ぶのも、1つの方法だと思いますよ。

人が多く訪れるメジャーなコースを選ぼう

ライター
相馬

他に行き先選びで気をつけたほうがいいことはありますか?

栗田さん

多くの登山者や観光客が冬でも訪れるメジャーなコースがいいと思います。その点では、高尾山や鎌倉のハイキングコースなどはおすすめです。観光地化されたコースなら、天候や積雪情報も得やすいしコースも整備されていて安心です。

ライター
相馬

いざという時に助けを求めやすそうですしね。

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冬は特に体感温度の差が激しい! 汗冷えを防ぐウェアの工夫

行き先の選び方がわかったところで、次に気になるのが、何を着て行けばいいかということ。真冬はいくら天気がいい日でも、何時間も外を歩き続けるとなると、寒さに耐えられるのかどうか心配ですが…。

冬こそ”汗冷え”に注意!

栗田さん

標高が低い場所でも、風を遮るものが周囲に何もない吹きさらしの場所では、風で体が冷えます。一方、真冬でも風が無い晴天の日なら、その中を歩き続ければ汗が出ます。でも止まると寒い。つまり冬ほど体感気温の差が激しいんです。

ライター
相馬

汗をかくと、止まった時に汗冷えしそうですね。

栗田さん

そうなんです。冬ほど汗冷えに注意が必要なんです。冬の登山は寒そうという印象が強いので、ダウンジャケットを着てくる方がいるんですけど、ダウンを着て歩いたらすぐに汗だくになります。さらに、ダウンの下はロングTシャツだけ、という方がいるんですが、これが一番危険

ライター
相馬

なぜですか? 暑くなったら脱げばいいんじゃないんですか?

栗田さん

ダウンを脱いだら長袖シャツ1枚…では体温調整が極端過ぎるのです。少しずつ調整できる状態を作っておくことが大事なんです。

ライター
相馬

難しそうですね…。

栗田さん

「山だから標高が上がって気温が下がる。風が当たると体温を奪う」ということと「動いたら暑くなる」という2つの状態を想定し、簡単に脱ぎ着して調節できるようにしておくのが、理想的なウェアの着方なんですよ。

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トップスとボトムス、何を何枚着ればいい?

ライター
相馬

具体的には何を何枚着ればいいのでしょうか?

栗田さん

まず一番内側に着るものは速乾性があることが大切です。乾きやすくフィット感のあるインナーを下着にします。その上に厚すぎないウールのシャツやネルシャツを重ね、さらにフリースを重ねるイメージです。風の侵入を防ぐためにレインウェアやハードシェルを重ね着すれば、体温を保つことができます。女性の場合は、ブラジャーも速乾性のあるスポーツブラがいいでしょう。

ライター
相馬

ではボトムスは?

栗田さん

私の場合は、秋冬用の厚手のトレッキングパンツを履いて、その中に薄手のタイツを履いています。タイツはアウトドア用のものもありますが、女性の場合、80デニールくらいの普段履いているタイツでも温かく感じられます。

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朝晩の寒さに重宝するウェアや小物類

ライター
相馬

その他に防寒用のウェアや小物類で必要なものはありますか?

栗田さん

レインパンツは履けば暖かいので、必ず持って行きましょう。また、小さく畳める薄手のダウンも、天候にかかわらず持っていったほうがいいでしょう。例えば休憩時など行動が止まった時や、帰りに日が暮れてから寒くなった時にも重宝します。

ライター
相馬

手袋なども必要ですか?

栗田さん

はい、早朝や日暮れ後に気温が下がった時に、防寒用の小物類があるといいですよ。私の場合は、薄手のフリースの手袋、ニット帽とネックウォーマーは持って行きます。これらがあるだけで、保温効果がかなり違います!

ライター
相馬

晩秋から冬は、昼間は春のように暖かかったのに、日が暮れた途端にガクンと気温が下がることってありますからね。確かに、そういう時にこそ、持っててよかったとなりそうです。

冬ならではの装備ってどんなものがある?

よく冬山登山に必要な装備としてアイゼンや軽アイゼンなどと聞きますが、これはどんな山でも必要なのでしょうか?

低山でも軽アイゼンは持って行ったほうがいい

栗田さん

軽アイゼンは低山でもあったほうがいいですね。

ライター
相馬

そうなんですか! でも雪が降っていないことが確認できれば必要ないのでは?

栗田さん

たとえ積雪がなかったとしても、降った雨が凍ってなかなか溶けないこともあります。少しでも凍結している場所があると、軽アイゼンを持っていなければ、そこを渡れず、引き返さなければならないかもしれません

ライター
相馬

なるほど。確実に凍結がないと確認できる場合以外には、軽アイゼンはザックに入れておいたほうがいいのですね。軽アイゼンは、どんなトレッキングシューズにも付けられるのでしょうか?

栗田さん

登山靴なら概ね付けられると思いますが、スニーカーにはつきません。また、冬に登山をするなら、ローカットではなくハイカットのトレッキングシューズを選ぶことをお勧めします。靴底が厚くて頑丈なので滑りにくく、またハイカットのほうが暖かいからです。

ライター
相馬

軽アイゼンを選ぶ時の注意点はありますか?

栗田さん

4本爪ではなく6本爪のものがおすすめです。また、土踏まずの部分にだけつく小さくて安価なものがありますが、そういったものの中には、初心者には向かないものもあるので要注意です。できれば、登山やアウトドア専門店に行き、ショップスタッフに聞いてから決めるのがいいでしょう。

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そのほかに冬ならではの持ち物は?

ライター
相馬

軽アイゼン以外に、持って行ったほうがいいものはありますか?

栗田さん

ストックは、雪山の場合は必ず必要ですが、雪が無い場合でも秋から冬の登山では重宝する場合があります。枯葉が積もっている時に、ストックがあるとバランスを取りやすくなります。

ライター
相馬

なるほど。秋から冬は登山道に枯葉が積もっていることがよくありますね。

栗田さん

あと、これは夏でも必需品なのですが、ヘッドランプも忘れずに持って行きましょう。というのも、冬は日暮れが早いので、気づいたらあたりが薄暗くなっていたということもあります。そんな時にはヘッドランプが必要になります。

温かい飲み物で体を温め、水分補給も十分に

ライター
相馬

食べ物や飲み物についての注意点はありますか?

栗田さん

休憩やお昼に、暖かい飲み物があるといいですね。お湯を沸かせない時もあるので、私はいつも水筒に熱湯を入れていって、休憩の時にココアやスープなどを作って飲みます。スープジャーにスープを作って入れていってもいいかもしれません。

ライター
相馬

体が温まって元気が出そうですね。行動食やお昼ごはんで、冬ならではの工夫って何でしょう?

栗田さん

長い時間休憩すると体が冷えるので、手早く食べられるものがいいと思います。それと、ごはんが寒さで固くなることもあるので、冬はパンを持っていくことが多いですね。

ライター
相馬

確かに、寒いとおにぎりも固くなりますから、パンのほうが食べやすそうです。

栗田さん

水分も、夏と同じように十分な量を持って行きましょう。汗は出ていないように見えても、体の中の水分は少しずつ蒸発していますので、きちんと水分補給をすることも大事です。

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冬は特に余裕を持って!スケジュールの立て方

ライター
相馬

その他に、冬山ならではの注意点を教えてください。

栗田さん

冬は日暮れが早いです。そのため、下山は午後2時から3時を目安にスケジュールを組みましょう。山の中では、平地よりも早く暗くなるので、注意が必要です。

ライター
相馬

登山口から駅へ行くバスの本数も、冬場は少なくなっている場合もあると聞きます。そういう意味でも早めの下山を心がけたいですよね。

強風だったら延期も検討しよう

栗田さん

それと、これは季節を問わずですが、天候が悪いとかこれから悪くなりそうという場合は、無理せずに日程を延期することも大事です。冬の場合、天気はいいけど風が強い日なども、避けたほうがいいですね。風が強いと、それだけで体感温度がぐっと下がりますから。

ライター
相馬

なるほど。冬ほど無理のないスケジュールを組むことが大事なんですね。

【まとめ】
・行く山に積雪があるかどうかを確認
・メジャーなコースを選ぶ
・服は少しずつ調整できるような着かたを心がける
・軽アイゼンはザックに入れておく
・ストックはあれば便利。ヘッドランプも忘れずに
・手早く食べられるものが◎。おにぎりは固くなるのでパンがおすすめ

登山は春までお休みと思っていた登山初心者も、しっかりと準備をして、無理のないスケジュールを立てれば、登山やハイキングを楽しめることがわかりました。ただし、くれぐれも無理のない範囲で安全に楽しんでくださいね。


◆お話しをお聞きした方:栗田朋恵さん
登山ガイド。外あそびtete主宰。長野県小谷村生まれ。故郷の白馬山麓と神奈川県鎌倉市を主なフィールドに活動している。親子ハイキングのワークショップのほか、幼児や児童を対象にした自然体験と造形表現の活動なども行っている。2児の母でもある。

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