【阪神JF】馬の性格や心理状態を見る

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先日、東京の両国で行われた「日本ウマ科学会」に参加するために北海道からやってきた獣医師さんと、ちゃんこ鍋を突きながら競馬の話をしました。僕がオーストラリアにメルボルンカップを観に行っているとき、彼はちょうどブリーダーズカップを観にアメリカに行っていたそうです。お互いに海外の競馬を見て得た情報を交換しつつ、新しい種牡馬やその産駒の出来から、出産時の大きさの話、日高の現状まで語りました。僕にとって、生産の最前線で働く彼の意見や見識は貴重です。

その中で、馬の気性の話になりました。アメリカの馬たちは、ダート競馬で土を全身に受けながらひたすら前へ前へと突き進むことが求められますので、気性的には激しいものを持っている馬が多い。それは生産の配合の段階から、育成・調教、そしてレースに至るまでの中で、そのようなメンタリティへとつくられていきます。逆にヨーロッパの競馬は長距離を走る馬が多いので、ゆったりとした気性でリラックスして走れる気持ちの穏やかな馬が求められます。それに応じて、生産から育成調教までが1本の線となり、つながっていきます。

それにしても、と話をさえぎるようにして私は言いました。

「メルボルンカップのパドックを見て驚いたのは、どの馬もまったく入れ込んだり、チャカついたりしていなかったことです。日本から参戦したチェスナットコート以外は」

これは決して大げさではなく、私が日本のパドックで見て、消していくタイプの馬はただの1頭もいなかったのです。どの馬もゆったりと歩けていて、厩務員さんに変に甘えることもなく、汗ひとつかいていません。これから激しいレースを走る馬とは思えない平常心を保っているのでした。

パドックで馬の心理状態を見て、それをよりどころにする僕にとっては、明らかに悪くて消せる馬が1頭もいなくて困り果てました。ヨーロッパやオーストラリアの超一流のステイヤーたちには、私のパドック理論は通用しなかったのでした。結局、長距離戦での実績を評価して、ベストソルーションという人気馬に賭けましたが、ハイペースに巻き込まれてしまい8着に敗れてしまいました。勝ったクロスカウンターはもちろん、敗れた馬たち全てがしっかりと歩けていて、どの馬を本命にしてもおかしくないほどだったのです。

なぜそのようなことが起こったのでしょうか。メルボルンカップの出走馬がステイヤーだからという理由だけではないと思います。オーストラリアは短距離戦が中心の競馬であり、ほとんどの馬たちはスプリンターです。他のレースの出走馬を見てみても、たとえスプリンターであっても、同じように落ち着いてパドックを歩いていたのです。

馬が感じているストレスが全く違うのだと僕は思いました。日本やアメリカの馬たちは、おそらく日常的にストレスフルな環境の中で過ごしているのです。さらにレースに臨むにあたって、そのストレスはピークに達します。どこかが痛かったり、苦しかったり、調子が悪かったりする馬は、得にパドックで走りたくないという気持ちを全身で表現します。それに対して、ヨーロッパやオーストラリアの馬たちは、普段からリラックスして過ごしており、人間との信頼関係も厚いのではないでしょうか。それがパドックでの姿に如実に表れていたのです。

前置きが長くなりましたが、その馬の気性や性格など、立ち写真からでは分からない情報が確かにあります。特に2歳戦などは、各馬に関する情報が少ないため、立ち写真以外も見る必要が出てくるのです。その馬の気性や性格などを知るために、私はまずパドックを見ることにしています。新馬戦から時系列的にパドックを見てみることもあれば、前走のパドックを見て分かることもあります。レーシングビュワーではいつでもパドック映像を観られるサービスがあり、とても便利ですね。

今週行われる2歳GI阪神ジュベナイルフィリーズに出走するメンバーの馬体を見渡してみると、どの牝馬たちも目移りするほどに素晴らしい馬体を誇っています。グレイシアは牝馬らしからぬ重量感に溢れ、いかにもパワーがありそう。シェーングランツは姉ソウルスターリングよりもコンパクトに出ていますが、それゆえにより切れ味は鋭そう。ダノンファンタジーもコロンとした中にまとまりがあって、安定して力を出し切れそう。ビーチサンバはフサイチエアデールの仔にしては全体に長さがあって、将来性が高そうです。

これだけ素質や将来性の高い馬たちが揃うと、立ち写真だけでは本命を決めかねるのが正直なところです。そこで次に見たいのはパドックでの姿です。パドックにおける立ち振る舞いには、その馬の気性や性格が出ますので、それらを含めて予想してみましょう。各馬のパドックの動きを見て、とても落ち着いていて、苦しいところもなく、レースに行ってもジョッキーの指示を素直に聞いて反応することができそうだと最も感じさせてくれたのはビーチサンバです。調教の動きも素晴らしく、本命に推したいと思います。立ち写真とパドックでの立ち振る舞い、そして調教の動きを見ると、この馬が好走しそうなイメージしか湧きません。

◇治郎丸さん執筆◇
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サラブレッドの各パーツ(前躯や繋、蹄、肢勢など)について学術的に解説をし、さらに種牡馬ごとの特徴や岡田スタッド代表岡田牧雄氏をはじめとする競馬関係者へのインタビューも掲載。競走馬の奥深さが描かれた、これまでにない『馬の見かた完全読本』。