<直言!日本と世界の未来>米中貿易戦争に勝者はない=世界中が翻弄される―立石信夫オムロン元会長

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トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が12月1日にブエノスアイレスで会談し、米国が来年1月に予定していた追加関税措置を猶予することで合意した。米国の対中貿易赤字の縮小に向け、中国が米国から大豆などの農産品を早急に購入することや中国が液化天然ガス(LNG)などのエネルギーや産業製品を購入することも決まった。貿易戦争による両国経済に与えるダメージが拡大する中で、貿易赤字縮小を公約に掲げるトランプ氏と貿易摩擦の激化を回避したい習氏の思惑が一致したようだ。

米中貿易戦争がひとまず“休戦“となったことで、世界の経済人は皆ホッとしたことだろう。筆者も同じ思いを抱いた。実際、直後の世界の株式市場は急反発した。

ところが、知的財産権保護など中国の構造改革を巡る米中協議について、穏健派のムニューシン財務長官に代わって対中強硬派のライトハイザー通商代表部(USTR)代表が米側の責任者を務めると発表され、2019年2月末を期限とする90日間の協議が厳しい内容になりそうだとの見通しが強まった。

さらに、カナダ司法省が中国の通信機器最大手、華為技術の副社長を逮捕したことが明らかになった。米国が経済制裁を科すイランに製品を違法に輸出した疑いで、米当局が拘束を要請していたという。米国政府は今後、同社に制裁を科す可能性があり、米中摩擦の新たな火種になりそうだとの懸念から内外市場で株価が急反落した。

トランプ大統領による対中関税引き上げなどの保護主義的な政策と中国の報復措置は、中国経済の減速を招いただけでなく、米消費者・製品物価の上昇や株価急落、大豆など農産物価格の急落などの形で米国自身に跳ね返り、米経済にも深刻な打撃を与えている。多くの企業の業績懸念とマーケットの変調は、好景気と株価の上昇を誇示してきたトランプ氏には想定外だった。米国では米中貿易戦争によるダメージを懸念した経済金融界の反発が強まり、これに中国側の報復に伴う農産品の大幅値崩れに直面する農業団体が呼応しているといわれる。

底流で米中の対立は次代の覇権争いの様相を呈し、厳しい米中関係が続くと見る識者も多い。トランプ政権内では強硬派と協調派のせめぎ合いが続くことになろう。米国はじめ世界景気に陰りが見え始めている中、さらに米中貿易摩擦が激化すれば経済が混乱するのは必至。貿易戦争に勝者はない。このままでは日本をはじめ世界中がとばっちりを受けるのではと懸念する。

(直言篇72)

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。SAM「The Taylor Key Award」受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。