F-35Bステルス戦闘機を搭載したら護衛艦「いずも」は「攻撃型空母」になるのか

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防衛計画の大綱

護衛艦「いずも」

12月中にも策定される新しい「防衛計画の大綱」で、焦点の1つとなっているのが、短距離滑走で発艦・離陸が可能で、垂直に着艦・着陸が出来るF-35Bステルス戦闘機を導入し、ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」の、特に甲板を改修し、F-35Bを搭載・運用できるようにして、「多用途運用護衛艦」として運用する、というものである。

F-35B戦闘機

このF-35Bを運用するという点を指して実質、いずもの「空母化」という意見もある。

また、F-35Bステルス戦闘機を搭載して運用する軍艦と言えば、スキージャンプ甲板を備えた英海軍の空母「クイーン・エリザベス」級がある。

クイーン・エリザベスから発艦するF-35B

F-35Bは、機体の中央部に大きなリフト・ファンと呼ばれる機体の下に空気を吹き付ける機構をもち、後ろのジェットエンジンの噴射口を下に向けることが出来ることを最大限活用して発艦するため、クイーン・エリザベスは飛行甲板の前端が反り返った、いわゆる「スキージャンプ甲板」を持つ。

そして同じく、F-35Bステルス戦闘機を運用する軍艦としては、長崎県・佐世保を事実上の母港とする米海軍強襲揚陸艦WASPがある。

WASPに着艦するF-35B

WASPは平らな全通甲板を持ち、岩国基地に配備された米海兵隊のF-35Bが搭載される。しかし、米海軍では空母とは呼ばれない。あくまでも強襲揚陸艦なのだ。

艦内に海水を引き込めるドックがあり、戦車や装甲車を載せた大型ホバークラフト「LCAC」が、そのドックから出て、海岸に上陸させることができる。つまり、F-35Bステルス戦闘機等の航空機の運用だけがその機能ではない。このため、F-35Bが運用できる軍艦="空母"ということではなさそうだ。
空母=「航空母艦」とは

DOD Dictionary of Military and Associated Terms(2018年11月版)

米国防省の公式の辞書にあたる「DOD Dictionary of Military and Associated Terms(2018年11月版)」には「海上や地上の目標に対する攻撃に従事し、他の軍部隊を支援する持続的な活動に従事する航空機を支援し、操作するために設計された軍艦で、 CVまたはCVNとも呼ばれる」と記述されている。

CVは通常動力の空母を指し、CVNは原子力空母を指す。現在、米海軍が運用している空母は全て、CVN=原子力空母だ。
日本が保有してはならない空母とは
小野寺五典防衛相(当時):
いわゆる攻撃的兵器を保有することは、自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるため、憲法上許されないと考えております。例えば、大陸間弾道ミサイル=ICBM・長距離戦略爆撃機・攻撃型空母については、保有することは許されない。(参・予算委員会 2018年3月2日)

小野寺防衛相(当時)の答弁から、日本が保有しないことになっているのは「攻撃型空母」であることがわかる。では、「攻撃型空母」とは何なのだろうか。

上野隆防衛審議官(当時):
攻撃型空母といいますのは…攻撃機のほかに対潜機も積んでおりますし、偵察機も積んでおりますし…攻撃機を直援・援護するための戦闘機も積んでおりますが…すなわち攻撃機を主力とする空母を攻撃的空母と言いますれば、そういう空母というのは持てないというふうに、防衛白書でも明確に言っておるわけでございます。(衆・内閣委員会 1978年3月2日)

つまり艦載機として「攻撃機が主力」で、それを「援護する戦闘機」や他の軍用機が搭載されているのが「攻撃型空母」という説明だ。ある空母が「攻撃型空母」かどうかは、特に「攻撃機を主力とする」というのが重要なようだが、この答弁でいう「攻撃機」とは、どんな軍用機なのか。

それについても、この答弁では「対地あるいは対艦の攻撃力のある航空機を搭載する空母、代表的な機種は攻撃機」として、空中戦ではなく、対地・対艦攻撃能力のある軍用機を攻撃機としている。答弁の前提は「攻撃機」と「戦闘機」が分類上、別の軍用機ということだろう。

上野防衛審議官の答弁は1978年時点のものだが、さらに「攻撃型空母という分類、CVAと一般に言われておりますが、こういう分類は最近はあまり一般的ではございません」というのも同じ答弁の中の言葉だ。その理由について、同じ答弁の中で、以下のように語っている。

上野防衛審議官(当時):
CVA、攻撃型空母という分類は、CVSというのは対潜水艦用の空母でございますが、潜水艦掃討専門の空母と対比する意味でCVA、攻撃型空母という分類が一般的であったのが数年前でございますが、最近では空母はCV、原子力推進のものはそれにNとつけるというような分類になっています。そしてCV、すなわち対潜機能もあわせ持った航空母艦です。(衆・内閣委員会 1978年3月2日)

つまり、この答弁がなされた1978年時点で対潜空母=CVSも、攻撃型空母=CVAも空母としての一般的な分類ではなくなったというのである。いずれにせよ、この答弁に沿って考えるなら、攻撃型空母は「攻撃機が主力」で、それを援護する戦闘機や他の軍用機を搭載していることが定義の重要な要素となるのだろう。
空母に載せられる攻撃機は?

A-6イントルーダー攻撃機
A-7コルセア攻撃機

米軍では、攻撃機には「A-〇」という名称を付けるが、米海軍の空母搭載用の攻撃機、A-6イントルーダー攻撃機は1997年に退役し、A-7コルセア攻撃機が1991年に退役した。

米海兵隊のAV-8BハリアーII攻撃機は、まだ現役だが、2003年に生産が終了している。仏海軍のシュペルエタンダール攻撃機も2016年に退役。西側では現在、米国のF/A-18戦闘攻撃機や、フランスのラファールのように戦闘機と攻撃機の両方の役割をこなせるマルチ・ロールの軍用機が空母艦載機の主流だ。

アルゼンチン海軍のシュペルエタンダール攻撃機

そして、F-35ステルス戦闘機も「JSF(統合打撃戦闘機)」との別名が示すように、マルチ・ロール機の一種だ。そうなってくると「攻撃機を主力」とし、「攻撃機を直援・援護する戦闘機」を搭載するというのが定義の「攻撃型空母」というのは、そもそも、現在、導入可能な各国の軍用機の機種を考えた場合に、物理的に可能なことなのだろうか。

E-2D早期警戒機

さらに、空母艦載機として重視されるのは、戦闘攻撃機より遠くを見通せるレーダーを備えた空飛ぶレーダー・サイト、早期警戒機の存在だ。現在、米・仏の空母で運用される艦載早期警戒機はE-2ホークアイだが、米や仏空母のように、軍用機を打ち出すカタパルトを備えている場合は、甲板全長300m前後でも運用可能だが、カタパルトが無い場合、例えば地上では、約600mの滑走距離が必要といわれる。

「いずも」の全長248mでは、カタパルトを設置するような大工事でもしなければ、E-2早期警戒機の運用は難しいだろう。英国やロシアのように、ヘリコプターにレーダーを積む「早期警戒ヘリコプター」なら、改修した「いずも」でも運用できるかもしれないが、その場合は早期警戒ヘリで掌握できる範囲が限られ、従って、艦載の戦闘攻撃機の活動範囲も限定されるだろう。

護衛艦「いずも」

「いずも」がF-35Bを運用可能→どんな種類のフネ?
前述の米国防省の公式の辞書にあたる「DOD Dictionary of Military and Associated Terms(2018年11月版)」には、軍用機を運用できる軍艦としては、「air-capableship」というのも定義されていて「空母や原子力空母・強襲揚陸艦(一般目的)とか、強襲揚陸艦(多目的)以外で航空機が発艦・回収でき、日常的に補給を受けたり移送できる艦。ACSとも呼ばれる」としている。

つまり、軍用機を運用できる軍艦は空母や強襲揚陸艦だけではなく、その他の場合は「ACS=航空機運用能力艦」と分類しているというのである。「いずも」は、もともと、対潜作戦用のヘリコプターを主として搭載する護衛艦だ。先に引用した上野防衛審議官(当時)の答弁には「やや昔の分類にありますCVSのようなものは持てるんではないか」との言葉もあった。F-35Bを搭載したら、対潜ヘリコプターの搭載を止めるのだろうか。

防衛計画の大綱の検討に当たっては、「空母」や「母艦」という言葉ではなく、「多用途運用護衛艦」という艦種名が、検討されているというが、将来、改修した「いずも」は「攻撃型空母」や「空母」等より、むしろ、その方が実態に近いかもしれない。

【動画】「能勢伸之の週刊安全保障」(12月8日配信)

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