一貫受注で製造装置を単品生産 富士商工 佐世保から世界へ 工業会企業の「技術力」・7

 新たな発想やイメージは線になって広がる。やがて交わり、つながって唯一無二の形をつくり出す。命を吹き込まれた製造装置は、私たちの営みを支えていく。
 工場に製品や部品がところ狭しと並んでいる。滑り台状のコンベヤー、洗濯槽のような機具、長方形の容器…。大きさや形状、素材など一つとして同じものはない。巨大なものは長さ約40メートル、幅10メートルにも及ぶ。

組み立てられる製鉄所向けの生産設備=佐世保市広田4丁目、富士商工

 基本設計から部品製造、溶接、機械加工、組み立て、検査までほとんどの工程を一貫して受注する態勢を整える。このため開発中の仕様変更に加え、顧客の細かい希望や挑戦的な試作にも対応した「単品生産」が可能に。「開発的な要素を含んだ装置を造っている」。代表取締役社長の中島洋一氏(68)の静かな口ぶりに、力がこもった。
 1951年に中島二男氏が設立。佐世保重工(SSK)の下請けとして船舶の修理などに当たっていた。しかし造船不況に伴い、100%依存していたSSKからの受注が減少。経営の転換を迫られ、菓子を焼く釜や波佐見、有田、伊万里といった陶器を運ぶコンベヤーの製造を始めた。教訓を踏まえ、幅広い取引先を持っている。
 受注実績には、日本社会の「これまで」と「これから」が投影されている。国内の大動脈となった新幹線の台車・車輪の検査装置、環境汚染が問題化したPCB(ポリ塩化ビフェニール)の処理設備、廃棄物処理設備などだ。次世代のクリーンエネルギーとして注目されている、水素エネルギー供給システムの技術開発にも協力した。
 国内の大手メーカー数社との事実上のOEM(相手先ブランドによる生産)も盛んだ。手掛けた産業機械は、東南アジアや欧米でも活躍している。
 ものづくりの現場は分業化、専門化が進む。一貫生産は受注量の波が大きく不安定な面もあるが、あえてそこにこだわる。「技術力は上がり、社内で作る部品一つにも付加価値がある。この路線で時代に必要とされる企業になりたい」。中島社長は強調する。
 時代の要請は刻々と、複雑に変化している。今日も理想を形にする探求は続く。

◎富士商工
 佐世保市広田4丁目。1951年6月に中島二男氏が設立した。中島洋一代表取締役社長は4代目。従業員は84人(8月現在)。主な取引先は日鉄住金レールウェイテクノス、ジェイエイ北九州くみあい飼料、不二越、黒崎播磨、日立造船、産機エンジニアリングなど。

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