プレー機会を求めチェコに渡った元徳島・安田氏 海外挑戦で得た大きな自信

今年はチェコリーグでプレーした安田旺昌氏【写真提供:安田旺昌氏】

不完全燃焼に終わった徳島でのプレー、投げる機会を求めチェコへ

 2018年シーズンも終わり、今後は豪州や台湾などでウインターリーグも始まった。海外に目を向けてみると、海を越えてプレーする日本人選手もいる。今年、チェコでプレーした安田旺昌(あきまさ)氏に話を聞いた。

 安田氏は大阪出身で最速148キロの直球を軸にドロップカーブやチェンジアップなど、変化球を織り交ぜて攻める本格派投手だ。小学4年生から野球を始め、住之江ヤング、大体大浪商に在籍。その後は2年間、甲賀健康医療専門学校でプレーし、徳島インディゴソックスでも投げた経験を持つ。「徳島では中継ぎとして投げていましたが、故障の影響もあって満足にプレーできませんでした」と当時を振り返る。

 徳島でのプレーを終えて次なるステージを目指し安田氏はBCリーグのトライアウトを受験する。自信を持って投げ切った後、球場を出ようとした際にこれまでイランやパキスタンなどアジア3か国で代表監督を務めた色川冬馬氏と出会った。

 色川氏は当時、台湾での試合を通じて海外球団との契約を目指す「アジアンアイランダース」を創設し、選手探しを行っている最中でトライアウトの視察に訪れていたという。

 海外でプレーができる機会はもちろんのこと、まだ投げ足りない気持ちがあった安田氏にとって、この誘いはまさに最高のタイミングだった。アジアンアイランダースへの入団を決めた安田氏は主に先発としてマウンドに立ち、吉報を待った。台湾での投球を終えて数日後、チェコ1部リーグに所属するオリンピア・ブランスコから入団オファーが届き、その知らせからわずか数週間後に現地へと飛ぶことになった。

言葉の壁、伝えられない意見…海外ならではの葛藤

 チェコ1部リーグには10チームがあり、約40試合のレギュラーシーズンを行って上位6チームがプレーオフに進出するという仕組みとなる。安田氏は徳島時代と同様、先発とリリーフの両方ができるスイングマンの役割を期待されていた。初登板の試合では中継ぎとして2回無失点の活躍をみせたが、自身初の海外リーグということもあり、環境への順応に時間を要したという。

「住居や保険は球団が保証してくれていたので生活としては不自由はしませんでした。しかし、言葉の壁に直面したこともあって、前半戦は2割~3割くらいの力しか発揮できませんでした」

 自分の言いたいことを伝えることができない語学力。海外では自分の意見を言わなければ生き残れない。日本とは違った環境で葛藤する中、なかなか調子が上がらない中で4月に先発として登板した試合で8回15奪三振のリーグ記録を樹立した。それでも試行錯誤の日々は続いたが、先発だけではなく、中継ぎや抑えとどのような役割でもこなす中で、夏場にある転機が訪れる。

国際大会で得た大きな自信、新たな道・堺シュライクスへ

 7月にチェコで「プラハ・ベースボールウィーク」という大会が開催された。今大会ではチェコ代表をはじめ、イタリアやポーランドなど欧州各国の代表チームやオーストラリアのクラブチームが参加するなど大きな国際大会となる。

 この大会で、安田氏は海外出身の選手で構成された「インターナショナル・スターズ」の一員として参加。初戦のオーストラリア戦で開幕投手を任され、3回無失点、続くチェコ戦でも無死満塁の場面を抑えるなど、実績を残していく。その後、優勝をかけて再びチェコと対戦すると、安田氏は中継ぎとして2回無失点の好投を見せ、チーム優勝の原動力となった。

「チームメートに恵まれたおかげもあって、安心して投げることができました。代表相手に投げた経験は大きな自信となり、後半戦は調子がとてもよかったです」と生き生きとした表情で振り返った。

 こうしてチェコでのシーズンを終えて帰国した安田氏は、日本でも数少ない欧州野球の経験者として大きな財産を手にした。近年、チェコは積極的に国際大会にも参加しているが、なかなか日本では話題になる機会は少ない。チェコの野球レベル向上のために、安田氏からは「リーグにビッグネームの選手が来たらいいと思います。また、外国人のコーチや監督がいれば話題も増えるのではないでしょうか」との提案があった。

 同時にこれから海外リーグに挑戦する選手達に向けても「将来のために1度、海外リーグを体験してほしいですね」とメッセージ。台湾、そしてチェコで投げてきた安田氏だからこそ言葉の壁に直面し、そこから前に進んだ経験が、今後の野球界に新たな選択肢を提供するきっかけとなる。

 今後、安田氏は関西独立リーグに参入する堺シュライクスの一員としてマウンドに立つ。先日行われた入団テストに合格し、自らの力で新たな道を切り開いた。投球に貪欲な彼の挑戦は、まだまだ続く。(豊川遼 / Ryo Toyokawa)

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