【三井物産スチール設立10周年】〈新生三井物産スチールの針路〉《宇都宮悟社長に聞く》三井物産の総合力、フル活用 顧客のバリュー上げる新商売つくる、人材育成に重点、プロ集団を育成

三井物産スチール・宇都宮悟社長

――発足から10年が経過。今年4月に日鉄住金物産へ約400万トンの鋼材事業と人員を移管し、新生「三井物産スチール(MBS)」が始動しましたが、現状から。

 「売上高が3500億円規模、取扱数量が350万トン程度。社員数はグループ会社への出向者を含めて約360人で、そのうち約120人が三井物産からの出向者となっている」

 「日鉄住金物産へ移管したのは国内取引が多いため、以前より輸出比率が増えたが、国内商売が5割弱ある。輸出取引の中でも日系企業向けが多く、日本企業との取引比率が高い。その意味でも国内商売・国内のお客様とのお付き合いが大事だと改めて強く感じている」

――今年度上期業績と2020年度に向けた利益目標は。

 「前3月期は三井物産からMBSに移管された薄板貿易事業の収益貢献もあり、連結純利益61億円と過去最高益だった。4月に相当量の事業を移管したため今期は減収減益が避けられないが、連結純利益40億円を目指している。2020年度には、三井物産の鉄鋼製品本部全体として連結純利益200億円を計画しており、そのうち当社で50億円を稼ぎ出すのが目標だ」

――連結対象会社の現況は。

 「最大は50%出資するエムエム建材。メタルワンとの事業統合会社として発足4年が経過したが、当初計画した利益数値をクリアできるようになってきた。三井物産、三菱商事、双日の総合商社3社のグループ力を生かし、順調な運営ができるようになってきている。その他出資先としては新三興鋼管、セイケイ、ステンレスのMSSCがある。各社とも定量面で当社連結収益に貢献してくれており、さらなる収益力強化を期待している」

――三井物産が2割出資して連結対象とした日鉄住金物産との連携は?

 「出資母体となる大手町の三井物産鉄鋼製品本部が核となって、シナジーを創出していく。具体的には、物流面で相積みすることにより物流効率化が図れるケースなどが出てきている」

――三井物産スチールを将来、どういった企業にしますか?ビジョンを聞きたい。

 「三井物産と直結でつながっている強み、直系子会社という利点を最大限に生かしたい。三井物産は鉄鋼製品本部を含めて16の営業本部があり、プロジェクト・食品・化学品・ITなど分野が多岐にわたる。様々な情報が集まるのが武器であり、三井物産グループの総合力をフル活用できるような取り組みに力を入れたい」

 「三井物産の持つグローバルな顧客網や販売拠点網、さらには法務・財務・審査等のコーポレート機能を最大活用できることも強みであり、これもフル活用したい。現在、当社社員13人がロシア、メキシコ、アメリカ、ベトナム、インドネシア、ミャンマー、タイといった三井物産の海外拠点に出向しており、今後さらに海外での人員増強を図りたい」

――4月に一部事業を移管し、拠点も東名阪だけになりましたが、中長期の成長戦略をどう描きますか。

 「日々流れている既存商売の一定部分について4月に日鉄住金物産に移管し、そこへは当社の親会社(三井物産)が20%出資して人材も相当送り込み、シナジーを最大発揮する形で機能向上を図る方向に舵を切った。その新体制の中で当社の役割は何か。それは、お客様の元、つまり現場に頻繁に通ってお客様の思いやニーズをくみ取り、三井物産の総合力を活用した提案を行うことで事業環境の変化に対応した新しい商売を創出することだ」

 「三井物産の鉄鋼製品本部が4月以降、北海道、東北、中国、九州地区に配置した4人のスチールコーディネーターも、地場のお客様の新領域への進出や海外展開をサポートする。三井物産の他本部との総合力を活用する案件も紹介することができる。お客様のバリューを上げるお手伝いをしていきたい」

 「全国各地で三鉄会という親密取引先に集まっていただく会合を開いているが、グローバルベースで総合力を持つ三井との取引に価値を見出して下さっているお客様が大勢いらっしゃることを改めて認識した。お客様のニーズをお聞きしながら新しい分野での新規商売の開発や個別の悩みや課題に一緒に取り組んでいくこと、海外への進出等のお手伝させて頂きたい。今は『仕込み』の時期だが、三井と付き合っていて良かった、三井のお蔭でこんな商売につながった、という事例を一つでも二つでも多く実現したい」

――最後に人材育成について。

 「取引先から相談される存在になるには、営業部員が高度にプロ化する必要がある。そのために人材育成に重点を置いている。社員との車座ミーティングや座談会を通じて、MBSの将来を真剣に考える中堅社員の存在がいること、彼らが三井物産のDNAと言うべき『自由闊達』な精神で自分の意見を持ち、内外に活発に発信する力を持っていることを再確認出来、手ごたえを感じている。また、人材教育として、国内外での鋼材販売のプロ集団育成のため、各専門領域、語学、投資知識を実践と研修で装備すること、海外人材のローテーション化や人事制度の改定を考えている」(一柳 朋紀)

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