『輪違屋糸里 京女たちの幕末』 折り目正しい一級品の時代劇

(C)2018銀幕維新の会/「輪違屋糸里」製作委員会

 浅田次郎の時代小説が原作。『壬生義士伝』に続く“新選組もの”の映画化第2弾で、大作『ソロモンの偽証』で主演に抜擢された、撮影時まだ16歳の藤野涼子がタイトルロールの糸里を演じ、テレビ時代劇の監督がメガホンを取っている。だから、あまり期待せずに観た。ところが…である。

 糸里は、京都島原に実在したとされる芸妓。さらに、新選組筆頭局長だった芹澤鴨の愛人・お梅と、芹澤の腹心・平山五郎と恋仲の芸妓・吉栄。3人の女性の視点から、芹澤鴨暗殺事件=男たちの権力争いを描いている。と同時に、妹キャラから押しも押されもせぬ太夫へと変貌を遂げる糸里の成長物語でもある。藤野の魅力は何よりその声にあり、クライマックスでの啖呵は、ドスが利いていて説得力十分だ。

 つまり、時代劇とはいっても見どころは殺陣ではない。特に印象的なのは、夕陽や火事の炎、ローソクの灯りといった暖色系の光。ここでは、共に女性の目線の先にある夕陽を浴びた土方歳三と、火事をバックに屋根に座る芹澤鴨が、示唆的に対比される。ほかにも、まるでアイリスアウトのように目を閉じる臨終や、メガネの双眼鏡のような使い方、情感あふれる傘の演出…その“古くて新しい”映像表現からは、撮影所で培った確かなスキルと映画監督としての高い志が感じ取れる。日本映画黄金時代の巨匠たちを彷彿とさせる、折り目正しい一級品の時代劇だ。★★★★★(外山真也)

監督:加島幹也

出演:藤野涼子、溝端淳平、松井玲奈、佐藤隆太、田畑智子、塚本高史

12月15日(土)から全国順次公開

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