家族や仕事もあるので、普段は日帰りのラン&ハイクがメインです
「いつも山を走っているイメージがあるかもしれませんが、それはソロで山に入る時。誰かと一緒の時は、結構歩いています。そして家族もいるし、仕事もありますから、長期間山に入ることは多くないです。でもまわりたい山があるので、時間短縮のために走ります。それに夏はお風呂にも入りたいから、その日のうちに下りてきます。だからテント泊や山小屋泊することも少ないです。冬は雪もあって行きたい山まで時間が掛かるので、テント泊が増えます」
トランスジャパンアルプスレース(以下TJAR)を4連覇もした人。だから勝手に長期山行が多いのかと思っていたら、そのスピードを生かして日帰りラン&ハイクがメインという。その装備は、山を素早く移動するために軽量コンパクトは当然。しかし、その選択基準は意外な言葉からはじまった。
自分の活動や山行に適したものを!
「コスパのよいものがいいですね。価格と性能のよさのバランスをまず重視して、その中から自分の活動に合ったものを選んでいます。価格の高いウエアでヤブ山や長期縦走をすると、破れたり、汚したりしそうなので、なんかもったいないと思ってしまって、山で豪快に使えないんですよ。だから高いウエアは、街着になってしまいます(笑)」
「防水防風防寒に、いろいろなシチュエーションで使えるレインウエアは、山では必需品です。TJARなど長距離のレースや何日にもわたる山岳縦走で一緒に困難を乗り越えると、相棒のような想いも強く出てきて、買い替え時がわからなくなるんです。捨てられません。だから古くなったら、街着として活用しています」
望月さんがTJARで使用していたレインウエアは、モンベルの『トレントフライヤー ジャケット Men’s』と『トレントフライヤー パンツ Men’s』だ。ゴアテックス パックライトを採用し、高い防水性能とムレにくい透湿性を装備。ジャケットとパンツを合わせた重さが341gという軽さで、運動量の多い、トレイルランニングやスピードハイクで愛用者が多い。そしてモンベル製品全般にいえることだけれども、コスパにすぐれたレインウエアといえる。
信頼できるギアは長く使い続けられる
「装備の軽量化を優先させた場合、真夏の低山で1~2時間程で登れる山は、レインウエアを携帯しない場合もあります(当然、レインウエアは持って行くことをお勧めします)。雨に降られても、レインウエアを着ても、結局汗で全身濡れてしまいますから。でも何かあった時のために、代わりにエマージェンシーシートを携帯していきます。ケガして動けなくなった時とか、万が一に備えたものです」
といって取り出したのが、ゴム留めされたエマージェンシーシート。一度広げると元通りにならないため、ゴムで留めてパックに入れておくという。また普段から必ず携帯している道具としてヘッドライトもある。デイハイクであっても、山に入る際の基本アイテムだ。
「これはペツルの『ミオ』。光量の大きなものだと眩しすぎて目がチカチカしてしまうんです。その点、このミオは適度な明るさで、ワイドとスポットの光の切り替えも簡単にできて、しかも175gと軽くて装着時の負担が少なくて気に入っています。TJARでもこれを使っていますが、電源が単三電池なんですよね。なかなか昔の考えから抜け出せないというか、これまで使ってきた実績を重視して4年くらい使い続けています。でも、そろそろリチャージャブルバッテリーのヘッドライトに切り替える時期かなぁとも感じています」
今や、山でスマホを活用しない手はない
自身の山行、そしてレースでも使い、多くのハイカー、トレイルランナーにもオススメしたい道具は? と問うて出てきたのはスマートフォンだ。万が一の際には連絡手段ともなり、美しい風景をカメラで撮影、予備のライトとしても使え、さらにアプリを使えばGPSで現在地を知ることもできる。
「今は山に入る際に、スマホは必需品だと考えています。ただ携帯していくだけでなく、登山アプリを是非活用してほしいです。僕自身は軌跡を取って山行記録を残したりはしていないのですが、そうした楽しみもあると思います。なにより現在地を把握できるので、道迷いや遭難を防げます。『フィールドアクセス2』『ヤマップ』『山と高原地図』『ジオグラフィカ』といったいくつかの登山アプリを使っています。それぞれに特長があるので、自分好みを選ぶとよいと思います。ただし予備バッテリーは持っていくことを忘れずに!」
望月さんが現在使っているスマホはiPhoneだが、防水、耐衝撃等にすぐれた機種に変更も考えているそう。その方が、山ではやはり安心だからだ。
「山で愛用している道具3つということでしたが、道具ではないものを追加してもよいですか?」と、続けて話してくれたのが食料のこと。
「過去のTJARでは、装備の選択ミスで寒い思いや食料が足りなくなってひもじい思いをしたことがあります。そういう状況に陥ると、本当にツラい。もう二度と、味わいたくない。だから食料はしっかり持って行きます。トレイルランのレースではジェル系が多いですが、僕にとって楽しみは大事なので、近所のパン屋さんの甘いクリームの入ったフランスパンがお気に入りです。ゆっくり歩く時はおにぎりも多いです。街で食べて美味しいものは、山で食べると美味しさ倍増です」
道具よりも大切なのは、帰ってくるぞという気持ち
軽量コンパクトさは絶対ではなく、元気に山を登って帰ってこられることを大切しているという。最後に挙げてくれたのは、「気持ち」だった。
「精神論かよと思われるかもしれないけれど、自分の足で帰ってくる強い気持ち、意志は、絶対に持ち続けてください。家族がいれば家族、友人がいれば友人に、安心して送り出してもらえるように準備を怠らず、山の話を共有してください。これ、ファーストエイドキットやセルフレスキューの技術同様に、大切なことです」
静岡市消防局で山岳救助隊員として働く望月さん。いろいろな事故を見てきたからこその考え。TJARで5回も完走し、困難を乗り越えて山から確実に帰ってきた人間が思う、答え。
待っている人がいることを忘れないこと。道具はその強い気持ちをサポートするものとしてあるのだ。