業界の人手不足対策に見解 ツクイ・津久井宏社長独占インタビュー(前編)

 長寿化が進む日本。総務省の統計によると国内の高齢者人口(65歳以上、6月1日現在)は3,544万人。総人口の28.0%と4分の1以上を占める。75歳以上も総人口の14.1%、1,780万人にのぼる。世界有数の高齢化社会に入り、介護ニーズが年々高まっている。
 東京商工リサーチ(TSR)は、全国で650カ所以上の事業所を運営する国内介護大手の(株)ツクイ(TSR企業コード:350172803、横浜市、東証1部)の津久井宏社長に、業界の課題と自社の今後の展望を聞いた。

-介護業界の現状をどう捉えるか
 介護保険制度が2000年に始まり今年で18年になる。保険でできるサービスも以前に比べて増えてきたが、これまでの通り一遍のものを提供するだけではダメだと感じている。地域やご家族の事情など、あらゆる要素を踏まえて丁寧にマーケティングしていく必要がある。

-具体的には
 例えば都市部と地方部では世帯構成や家庭環境の違いにより介護ニーズが異なる。サービスのラインナップは基本的には全国で一緒だが、ニーズをしっかり捉え、営業時間やサービスメニューを変えてみるとか、できる部分で変化をつけなければならない。

-ニーズ把握について欠かせない要素は
 事業所を出店する前のマーケットリサーチに加えて、出店後のリサーチも重要。どういう町で、どういうケアが求められているのか。地域で実際にサービスを利用されるご本人、ご家族の声を聞いてみないと。逆を言えばその地域に出店すればケアマネージャー(介護支援専門員)さんを通じ、その地域のニーズ、課題が自ずと見えてくる。47都道府県で最後に出店した高知から7年が経過した。今は出店したすべての市町村の状況が分かってきている。

ツクイの業績推移

-第二次中計が4月にスタートした
 第一次中期経営計画(2016年~18年3月期)では、サービス内容のブラッシュアップやどの地域にどういったサービスが必要か調査し、自社だけではなく医療や関係団体の協力体制を築いてきた。その上で、第2次中期経営計画のスタートに合わせ「ツクイの考える地域包括ケア」を定義した。
 例えば、(サービスの)利用対象はアクティブシニアから要介護の方まで幅広く、と明示した。過去には同業者から「ツクイさんは(要介護度が)軽度の人はやらないんでしょ」と言われたこともあった。それは弊社の考えと違う。軽度のうちから、ご本人のアセスメント(必要とする介護、支援体制の調査)をしっかり行っており、その方が取り組める予防策も幅広い。また、サ高住(サービス付き高齢者住宅)など住まい系サービスの積極出店を進めていく。どうしても、ツクイは“在宅”の印象が強い。サ高住は年間平均10カ所の新規出店を行う。

-各業界で人手不足が深刻だが、対応策は
 処遇の改善や研修制度の充実等の施策に加えて、介護人材の裾野を広げるため、若い世代にも業界への理解を深めてもらう機会作りを進めている。リクルートジョブズさんとタッグを組み、今年から高校生にアルバイトとして現場に入ってもらっている。時代柄、高校生をアルバイトさせない親御さんも相当数いらっしゃる一方、経済的に厳しいご家庭も少なくない。アルバイトの選択肢が少ない高校生のうちから介護の業界に触れてもらうことで、大学進学後に介護を就職先の一つとして考えてもらいたい。

-高校生アルバイトを迎えるメリットは
 これまで学生アルバイトの概念がなかったことも人手不足を招いた要因の一つだった。高校生には食事の配膳とかレクリエーションの手伝いなど、とくに専門資格を要しない業務を担ってもらう。その分、介護職員には専門性の必要な業務に集中して向き合ってもらえる。未成年はファミレス、ファストフードと(バイト先は)大体限られる。目上の人を敬うなど倫理観的にも親御さんからの印象は悪くない。すでに良い反響も頂いている。

-女性管理職が42.3%(3月現在)と4割超だ
 2013年には東証のなでしこ銘柄に選定された。また、「かながわ女性の活躍応援団」にも1回目から参画している。従業員の女性比率(7割超)も関係するかもしれないが、メディアで特集されるような特別な制度を設けていない。出産期の退職や、定着しないという考え方は先進国でも日本特有ではないか。マインドがあれば、女性登用は自ずと行われる。当社はそういう風土にある。それは創業者の時代からそうだ。

-保険外事業の導入について現状の進捗は
 積極的に行っている。長くお客様のアセスメントを行ってきたことで、保険外で必要なニーズも見えてきている。直近では、金融機関とタイアップを始めた。最晩年に「本当はこういう体験をしたかった」、「こういう老後を送りたかった」と人生に悔いを感じられる方も相当数いらっしゃる。でも、ご家族に“嫌われたくない”との思いから、生前、ご本人からお金のお話は打ち明けづらい環境にある。そこで、介護を担う“第三者”である私たちが間に入り「このお金はこのように残しますか」とご家族皆さんで話す機会づくりも始めた。また、4月から「エンディングサポートサービス」も開始した。延命治療の方針や望む葬儀の形などを記す“エンディングノート”作りから、葬儀、湯かんまでご本人の希望に沿った最期をご自身で決められるサービスだ。

-今後、高い成長が見込まれる事業は
 外部にも波及するような取り組みを進める。昨年は介護車両や福祉機器等をリースするツクイキャピタルを設立した。小規模(介護)事業者さんのニーズが非常に高く、今後も伸びが見込まれる。小規模事業者さんの場合、車両や福祉機器を購入するためのキャッシュも大きな負担だ。また、リース会社さんの審査も厳しい。ツクイで使うものと同等の物をリースすれば、ランニングコストを抑えられ、手頃な価格で使ってもらえる。

津久井宏社長

津久井宏社長 (後編へ続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2018年12月13日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

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