「胃がんリスク大幅減」 横須賀市中2のピロリ菌検査

 神奈川県横須賀市は2019年度にも、市内に住む中学2年の全生徒を対象に、胃がんの原因とされるピロリ菌の感染検査と除菌を無料で行う方針だ。市に必要性を説いたマールクリニック横須賀(同市米が浜通)の水野靖大院長(47)に意義や効果を聞いた。

 

 -なぜ検査が必要か。

 「日本人の胃がんの99%は胃の中のピロリ菌感染が原因。今は親らが保菌し、主に経口で5歳までに感染する。それが胃炎を起こし、ひどくなれば胃がんになるが、除菌すればリスクは減る。しかし、現在の検診対象年齢の40歳以上で除菌しても、既にがんの芽が育ち始めていて、除菌後に胃がんになる可能性がある。低年齢で除菌すれば、そのリスクを限りなくゼロにできる」

 「市は12年度から、40歳以上を対象に採血によるピロリ菌と胃炎のチェックを行い、感染者に胃カメラ検査を行う検診を始めた。バリウム検査では年間数人しか胃がんが発見できなかったが、12年度は108件が見つかった。ピロリ菌検査の効果は大きい」

 -中2で行う理由は。

 「網羅できるからだ。中学卒業後は他地域の学校に行ったり、働きに出たりすることもある。除菌薬の服薬を考えても、中2ならば大人の体と同じだ。出産年齢前なので、次の世代にうつさない効果もある」

 -検査の流れは。

 「希望者は家で採尿し、学校に提出する。陽性だった生徒に、錠剤を飲んで尿素呼気検査を受けてもらう。このダブルチェックで陽性だった場合、抗生剤の投薬で除菌する。除菌対象は2~4%とみられる」

 -実施方針に否定的な意見も寄せられたと聞くが。

 「『中2全員に除菌させるのはいかがなものか』『中学生の体に負担だ』などの意見だが、誤解に基づくものが多い。強制ではない。除菌では2種類の抗生剤を1週間投与するが、小児科や耳鼻科で出されているものをピロリ菌だけ問題にするのはおかしい。他市でも大きな問題の報告はない」

 -医療政策上の効果は。

 「市は初年度の対象を3300人程度と見込む。諸経費を除き、検査と除菌の費用は約400万円程度だ。胃がんになれば、治療1件で何百万円とかかるだけに政策効果は大きい」

 「かつて消化器外科医として胃や大腸の手術をしていたが、胃の切除後は食事が取りにくくなり、生活も大変だ。ピロリ菌をなくせば、そもそも胃がんにならない」

 -胃がん撲滅に向けた今後の取り組み目標は。

 「中2全員に検査が始まると、その上の15歳以上は40歳まで放っておかれることになる。成人式、妊活前チェックなどの形で、20歳前後の検査ができると良い。ピロリ菌由来ではない胃がんを早期発見するため、内視鏡検査も必要。これらを組み合わせれば、横須賀から胃がんをなくせる」

 水野 靖大氏(みずの・やすひろ) 京大医学部卒。消化器外科医として京大医学部付属病院や日赤和歌山医療センター、東大医科研付属病院などで勤務し、2012年にマールクリニック横須賀を開業。市医師会理事。市内在住。47歳。

マールクリニック横須賀 水野靖大氏

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