がん治療 可能性ある薬剤探索 横浜市大病院 実績107例

 国民の2人に1人ががんを発症すると言われる状況の下、横浜市立大学付属病院(同市金沢区)が、遺伝子情報を読み取り使用可能な薬剤を探し出すがん遺伝子検査に取り組んでいる。米国で始まった同検査を国内でいち早く2016年11月に導入。2年間の実績は107例に上る。今年4月にはがんゲノム診断科を新設し、専属医師を配置。「自分に残された可能性を探す検査」として、市民講座などを通じ利点や課題を周知している。

 「これまでにない新しい検査によって、既存の治療法以外の選択肢があるかどうかを知ること」。同病院がんゲノム診断科の加藤真吾医師は、がん遺伝子検査の目的をこう表現する。

 同病院が導入したのは米国の病院が開発した「MSK-IMPACT」。同検査は、米国の政府機関である米食品医薬品局(FDA)が初めて承認したがん遺伝子検査で、一度に480種類以上の遺伝子の変化を検出できる。担当する医師には高度な専門知識が求められ、他の検査方法も含め網羅的ながん遺伝子検査を実施している施設は全国でも限られている。

 同病院は首都圏に立地する代表的な検査機関として、県内をはじめ首都圏を中心に全国から受診を希望する患者が集まる。11月からは、東京大学で開発されたがん遺伝子検査TODAIパネル(厚生労働省に認可された先進医療)も使用可能となり、さらに検査の幅が広がった。

 加藤医師は、米国で2万人以上の解析を行っているMSK-IMPACTのデータや他のデータベースを参照し、患者の検体データから遺伝子の変化に対応した薬剤の有無を調べ、最終レポートを作成。検体を受けてからデータ解析などを経て結果ができるまでは最速で6週間程度だという。

 「がんは遺伝子に異常が起きて生じる疾患。根底にある異常を詳細に解析し、『異常な目印』を標的とした薬剤があるかどうか、現在報告されている全ての薬剤を検索にかける」。多彩なデータベースを駆使し、他のがん種で開発された薬剤の中から、自身のがんに使用可能な薬剤を探索。新たな治療法の選択肢を科学的根拠に基づき提示できる可能性が広がるというメリットがある。

 一方で、加藤医師は問題点として(1)新しい薬剤が見つかる可能性自体が10~20%と低い(2)効果的な薬剤が見つかった場合でも、基本的に自費(自由)診療になる(3)日本では混合診療が認められておらず、抗がん剤の副作用の治療なども全て自費となる-といった点を挙げている。

 「10%の可能性を高いとみるか、低いとみるか、患者自身の考え方が重要になる」と加藤医師。その上で「残された可能性」を探す患者に対し、検査の説明に時間をかけ、患者の意思を確認するように心掛けている。

がん遺伝子検査を担当する加藤医師=横浜市大付属病院

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