CSRブランディング最前線~第32回:2019年に向けた、ブランディングのPrincipia(プリンキピア)

新年に向けて、自分も自社も、「ブランディングしたい」「ブランド力を高めたい」と志を立てたい時期です。個人においても、企業においても、ブランドづくりにはPrincipia(プリンキピア)があります。

Principiaって、何?

Principia(プリンキピア)とは、ラテン語で「(普遍的な)原理原則」という意味です。英語では、Principle(プリンシプル)です。イギリスの物理学者アイザック・ニュートンの1687年の著作で近代物理学の基礎となった「自然哲学の数学的諸原理」の書名に由来します。

『正解のコモディティ化』という表現があります。論理と理性だけでは他社と同じ結論になり、スピードとコストのみが差別化要因となり、レッドオーシャン化するという文脈で使われます。そこで、「ブランド戦略」が注目されるわけですが、残念ながら表層的なアプローチが散見されるのが実情です。

ニュートンの名著の底流に流れるPrincipia(プリンキピア)にのっとって、問題を形式的・刹那的に解いて終わりではく、そこに存在している深遠なる本質を洞察していけば、「ブランド」の奥深さが実感できます。とかく、簡単に身につくものは、簡単に剥がれてしまいます。ブランドは、安直には築けないからこそ、価値があるのです。

「実体」あってこそのブランディング

SNSの普及もあり、「セルフ・ブランディング」がブームとなっているようです。ただ一般に、自分自身を客観的にとらえ、自ら戦略的に広報宣伝するという意味合いで使われているようです。企業ブランディングに際しても、往々にして同じような考え方が見受けられます。

ブランド戦略は、「実体」を基軸に、広く世の中(ステークホルダー)からの支持獲得を図る戦略です。そのためには、アイデンティティがはっきりしていなければならなりません。

根幹となるのは、ステークホルダーに対して、「自分は何者」であって、何を「約束」できるかです。実体から発露する得意技と個性こそがブランド・アイデンティティ、すなわち「らしさ」です。この探求こそがブランディングのスタートラインであり、ブランドを送り出す側と、受け取る側の共通言語になります。

「らしさ」は、上辺だけのイメージだけでなく、「自分とはいったい何者なのか」という自己の存在意義に関わる問いかけに対して、その答えとして深層から湧き出る概念です。

企業は、存在意義が認められてこそ、顧客をはじめとするステークホルダーとの長期にわたる精神的な結びつきを構築することができます。そのためには、自社の定義ともいえる「ブランド・アイデンティティ」を定め、何を「約束」するのかを明確にして、それに寄せられるステークホルダーからの期待に、『らしく』応え続けることが要諦となります。

「ブランド・アイデンティティ(らしさ)」の構成要素

ブランド・アイデンティティ(らしさ)とは、企業が望むブランドのあるべき姿であり、顧客をはじめとするステークホルダーに、そのように連想してほしいと思う姿を表明したものです。ブランドが目指す姿を示し、一貫した価値提案と差別化をもたらし、中長期的な見えない資産をストックする土台となります。

ブランド・アイデンティティの主な構成要素としては、

・ブランドの根源的な拠り所となる「フィロソフィー」
・そのブランドが顧客や社会に提供していく「ベネフィット」
・そのベネフィットを提供できる根拠や裏付けとなる「提供能力(持ち味、お家芸)」
・「パーソナリティ(個性・社柄)」

となります。

これを「個人のブランディング」の観点から整理するとすれば、以下の10項目が挙げられます。
自問自答してみてください。

①あなたの使命(ミッション:役割)は何ですか
②使命を実現していくにあたっての志・理想は
③ミッションにまつわるエピソードは(出会った人、素晴らしい出来事)
④あなたの強みは何ですか
⑤あなたの得意技と個性は何ですか
⑥あなたが持っている技術(コア・コンピタンス)は何ですか
⑦あなたの「売り」は何ですか
⑧あなたのファン(支持をしてくれる人)は誰ですか
⑨あなたが役に立ちたい人は誰ですか
⑩人(社会)の役に立てることは何ですか?

企業も個人も、世の中に対して、ブランドの存在意義やあるべき姿をフィロソフィーとして提示し、その価値観が実現できる製品・サービスを、バックボーンとともに個性的に打ち出していくものです。

ブランド・アイデンティティとは、ブランドの基本コンセプト、すなわち、企業が顧客をはじめとするステークホルダーの頭や心の中に何を築きたいのか、どんな約束をしたいのか、ということです。企業が、ブランドに象徴させたいもの、ステークホルダーに対するブランドの約束がブランド・アイデンティティです。

「(ならではの)実体」があってこそ、外部への体現ができ、発信に説得力や共感をもたらします。
「ブランド戦略」というと、ロゴやデザイン、コミュニケーション活動を第一に想起される人も多いですが、その仕事の半分くらいは、粛々と「ミッション」「ビジョン」や「ブランド・アイデンティティ(らしさ)」をつくる(かためる)ことであり、そして、それを社内に浸透させること(インターナルブランディング)といっても過言ではありません。

サステナビリティ時代のブランドへの期待

では、2019年に向けた共通の価値観、すなわちサステナビリティ時代において、ステークホルダーに約束すべき必須のファクターは何でしょうか。

それは、「社会性」です。社会に資するミッション・ビジョンのもとに共有された価値提供を軸に、顧客をはじめとするステークホルダーを引き寄せ、信頼と愛着につなげていくことを目指します。ブランディングのゴールは、「ブランド・アイデンティティ(らしさ)」を社会に約束し、あらゆる企業活動において一貫して守り続け、「企業と顧客や社会との長期的なゆるぎない絆」を構築することです。

ビジネスと社会課題解決を両立させ、『らしさ』で競争優位を創り出す戦略メソッドが「CSRブランディング」です。

【SB-J コラムニスト・細田 悦弘】

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