北海道地震でセコマなど3社が対応紹介 内閣官房がシンポジウム、BCPの重要性説く

北海道胆振東部地震で「神対応」と称賛された対応について語るセコマの丸谷社長

内閣官房国土強靱化推進室は4日、「企業における事業継続~巨大災害時代における企業の備えと防災人材の育成~」と題したシンポジウムを北海道札幌市で開催した。9月6日未明に起きた北海道胆振東部地震において、道内に拠点をおく企業3社の災害対応や事業継続の先進事例を発表し、災害時でも経営損失を最小限におさえるBCP(事業継続計画)策定の重要性を学んだ。

シンポジウムでは、震災による大規模停電から波及する機能障害をいかに乗り切ったか、3社が当時の対応を振り返った。

セコマ「地域コミュニティへの愛着と使命感が原動力」

北海道内に1100店舗のコンビニエンスストア「セイコーマート」を展開するセコマの丸谷智保社長は、SNSなどで「神対応」と評価された災害初動態勢や、平時の1.6倍の量を扱った物流の裏側を説明した。

セコマは事前に災害対応マニュアルを策定。地震発災直後はマニュアルに基づき、本部社員や店舗スタッフが車から非常電源を確保し、停電中も店舗を営業し続けた。店舗厨房のガス釜を使った「塩おにぎり」の炊き出し販売を行い、「停電中に温かい食事ができた」など感謝された。

非常電源は、オーナーなどの車から給電して店内レジを稼働させ、停電後も道内95%の店舗が営業し続けた。非常電源セットは、車載シガーソケットの電源(DC12V)を家庭用コンセント(AC100V)に変換するコンバーター、延長コード、手元を照らすLEDライトの3点で構成されている。2011年の東日本大震災をきっかけに全1100店舗に備蓄していたという。丸谷社長は「災害時に必要な消費電力を絞り込んでいたことで、少ない電源でも継続できた」と振り返った。

一方で物流倉庫は壊滅的被害を受けた。各地の倉庫では在庫品が散乱し、大量の商品廃棄が出た。1日かけて出荷可能な状態に整理した。災害時に需要が急増する水とカップラーメンは、丸谷社長自ら飲料水や即席麺のメーカー担当者に携帯電話やSNSで直接連絡をとって調達を依頼。同社茨城県の物流センターまで配送してもらい、フェリーに積み替えて40フィートコンテナ19基分を道内に輸送した。2016年に完成した釧路配送センターでは、施設とトラック40台が3週間可動できる大量の軽油・重油を備蓄していたため、これを札幌配送センターに分配し、トラック輸送用の燃料を賄った。これにより災害協定を締結した8自治体や自衛隊、北海道警察、北海道電力への物資供給を含め、通常の1.6倍の物量を供給し続け、32日半かけて通常業務に復旧できた。

丸谷智保社長は、同社の緊急対応計画が奏功したことについて「わかりやすい装備とマニュアルづくりもあるが、それ以上に店舗スタッフが業務を通じて地域コミュニティに対して愛着と使命感を育んで自主的に動いてくれていたことが大きかった」とスタッフの対応を讃えた。また今回発災後の早急な復旧作業により被害損失を抑え、さらに今回実践した緊急対応をきっかけに平時業務の効率化につながり、月1000万円のコスト削減を実現したことで、4年半~5年程で損失分を回収できると報告。「企業がBCPを備えていれば、災害による損失を最小限に抑え、機転の利いた対応を平時に生かすこともできる。災害を通じて経営が磨かれ、強靭になっている」とBCPの成果を強調した。

発災後1週間の自社紙面を紹介しながら復旧過程を振り返る北海道新聞社の三浦・報道センター長

北海道新聞社「道内唯一の印刷工場が命綱に」  

北海道新聞社編集局次長兼報道センター長の三浦辰治氏は、道内に約100万部をの日刊紙を発行する同紙が、震災後も紙面発行を継続し続けた過程を報告した。

9月6日未明から約2日間続いた大規模停電の対応に追われるなか、同社は東日本大震災をきっかけに本社・支社では自家発電機を備えていたため、中核となる紙面制作システムやサーバーは正常稼働できた。

一方、印刷工場が道内6拠点のうち5拠点が停止。そのなかで唯一2013年に自家発電装置を導入していた本社工場が「命綱」となり、同工場で6日午後から7日未明にかけて、自社媒体と災害協定などを結んだ他社媒体あわせて12紙・約200万部を印刷した。印刷工程でも、紙面数を大幅削減する、記事の締切時刻を最大で6時間早める、物流の中継拠点をつくりトラック輸送を効率化するなど工夫をすることで、発災による休刊を食い止めることができた。

このほか、道内38カ所の全支局に配置したエンジン式の自家発電機について三浦氏は「年1回の試運転が不十分だった」ため、ほとんど起動しなかったと報告。かろうじて始動した数台も「屋外は騒音で近所迷惑、室内は有害排気ガスが出る」と結局稼働できず、「ほとんど役に立たなかった」など、改善点も挙げた。

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東日本大震災を教訓に構築した同社のBCPを振り返るアクサ生命保険の柏木・札幌本社長代行

アクサ生命保険「危機の時こそ社員とその家族の命を最優先する」

アクサ生命保険札幌本社長代行の柏木勝俊氏は、札幌本社が発災から1週間でいかに全面復旧にこぎ着けたか。その過程を詳細に振り返った。

フランスの保険・資産運用グループAXA傘下の日本法人・アクサ生命保険は、2011年の東日本大震災で東京本社の機能の一部が支障をきたしたのを教訓に、本社機能の東京一極集中を改め、2014年11月に札幌本社を設立。2拠点本社体制を構築していた。今回はその札幌本社が被災した。

全道がブラックアウトに陥ったなか、札幌本社は最大72時間の自家発電機を配備したビルを選んで入居していたため、業務に必要な設備機器やネットワーク通信は、最低限利用可能な環境を確保できた。

ただし発災後、JR・地下鉄・バスは全て運休。信号機も停止したため車移動さえ困難で、出勤が困難となり、札幌本社で従事するスタッフ550人の出勤率は発災当日で1割、2日目でも5割にまで減少。この2日間で両本社が担う重要継続業務は通常の6割まで落ち込んだ。一部の部署では発災3~4日目の週末2日間を費やして事業の遅れを取り戻したことで、週明けの発災6日目にほぼ全面復旧に至った。柏木氏は「2拠点をつなぐBCPがあったからこそ、想定外の場面でも冷静な対処ができた」と成果を振り返った。

また今回災害時に社員が使命感を持って行動できた要因について、柏木氏は「災害時には社員とその家族の人命を最優先する」というBCP基本方針を掲げることで、「会社に大切にされた社員だからこそ、顧客を大切にできる」という好循環が生まれていると説明した。

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震災による道内企業への影響を報告する経産省北海道経済産業局・酒井参事官

災害損失減らすBCP、平時の経営改善も効果あり

シンポジウム当日は、行政側として、経済産業省北海道経済産業局・中小企業課の酒井哲也参事官と内閣官房国土強靭化推進室の小山陽一郎参事官も登壇した。参加した企業にBCP策定の推進を呼びかけた。

酒井参事官は、北海道胆振東部地震により道内の商工業に与える経済損失について、地震による建物・設備の破損に120億円、停電による商品・原材料の破棄等で136億円、また停電により2日間営業停止を行わなかったことによる損失が約1318億円とする北海道庁の推計値を紹介した。

また北海道庁が道内の企業経営者に実施したアンケートによると、回答企業575社のうち震災の被害・影響があるとした企業は57.3%。産業別では卸売・小売業が最も多く66.7%、サービス業65.0%となった。

具体的な被害状況については、「停電・断水等ライフライン停止による営業中止や営業時間短縮」が最も多く70.7%、「従業員の被災や交通網の寸断により出勤できないことによる営業中止や営業時間短縮」が25.8%、「物流網の寸断による出荷不能」が22.1%、原材料や商品不足による営業の中止や営業時間短縮」が16.5%、「相手先の被災により取引の停止・中止」が16.2%の順となった。

また道内でも比率の大きい食関連産業への震災影響調査では、今後の対応改善策として「自家発電機の増強」「商品保険の加入検討」などが挙がったという。

酒井参事官は、北海道においてBCP策定している企業は11.7%と全国平均の14.7%と比べても下回っている現状を報告。また策定していない理由として「策定に必要なスキル・ノウハウがない」が44.6%と最も多いことに対して、中小企業庁が作成し、オンライン公開している支援ツール「中小企業BCP策定運用指針」(http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/)や、年3回まで無料でBCP専門家派遣を依頼できる補助事業「ミラサポ」(https://www.mirasapo.jp/)の活用を促した。

小山参事官は講演で、BCP策定は災害時に人・モノ・事業機会の損失を最小限におさえるだけでなく、平時の経営資源を把握し、業務改善することで経営強化にも役立つことを強調。さらに自社のBCPの取り組みを顧客や取引先企業に評価してもらう手段の一つとして、2016年4月から開始した「レジリエンス認証」制度を紹介した。

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民間企業のBCP策定による、国土強靭化への期待を語る内閣官房国土強靭化推進室・小山参事官

シンポジウムは今回4日札幌会場を1回目として、今後も東京・愛知・大阪・岡山・福岡と全国5会場を巡回して開催する。詳細・申込みは事務局、MS&ADインターリスク総研まで。

■今後の予定はこちら
https://www.irric.co.jp/event/181204/index.php

(了)

リスク対策.com :峰田 慎二

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