「台風や水害のたび、橘湾には木やごみが大量に流れ込む。でも、こんな大きな流木は初めてだ」。長崎市茂木地区の漁業者は出漁を取りやめ、海上での回収作業を余儀なくされた。海水をたっぷりと含んだ巨木は船上に引き揚げることができず、ロープで船尾にくくりつけて港に運んだ。
長崎県に2006年夏、8万本近くの流木が漂流、漂着。これらは一体どこから流れ出たものか-。県は各地で採取した流木のサンプルを専門機関に送り鑑定を依頼したが、「国の特定には至らなかった」(県危機管理防災課)。専門家の間では中国で起きた洪水との関連も指摘されたが、結局のところ分からなかった。
これほど大量の流木が同時期に本県に漂着したのは過去に例がないことだった。人を寄せ付けない断崖(だんがい)や磯場での回収が困難を極め、陸揚げした流木の廃棄処理に各市町がともに頭を悩ませた。
各市町が合併後の経費節減策に取り組む折、まさに予期しない出来事だった。首長や漁協長から「外国に由来するとみられる流木の処理費用を一自治体で負担するのは納得できない」と不満の声が上がった。
県によると、流木が流れ着いた15市町の最終的な処理費用の総額は1億5544万円に上った。内訳は、関係自治体の要望を反映する形で国と県が9割を負担し、市町の実質の持ち出しは1割程度で済んだ。だが燃料油高騰のさなか、漁場を守るため自腹で沖合に浮かぶ流木を回収した漁業者も多かった。
もともと漂着ごみ対策に苦慮してきた県内各市町。今回の事態を教訓に、環境省は来年度予算の中で災害廃棄物処理事業費補助金について、災害に起因しない漂着ごみも補助対象とした。
「出どころ不明の漂流物は国が対応してほしい。今後も関係制度の充実を働き掛けたい」と、県廃棄物・リサイクル対策課の徳永孝二課長は語った。
◎メモ
流木漂着数 県内12市3町で7万7909本を確認。北に向かう海流に乗り、本県沿岸部に多く流れ着いたとみられる。五島、諫早、平戸、佐世保4市は1万本を超えた。流木は大半が再利用できず、いったん砕いた後に焼却処分された。(平成18年12月25日付長崎新聞より)
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【平成の長崎】は長崎県内の平成30年間を写真で振り返る特別企画です。