海上自衛隊の護衛艦「いずも」改修による事実上の空母化について「防衛計画の大綱」への明記が注目されている。以前から防衛省内で垂直離着陸が可能な米海兵隊用のF35B戦闘機の搭載が想定され、計画が練られてきた。全長248メートルの海自最大の艦艇は、艦首から艦尾まで甲板が貫く「空母型」でこれを護衛艦と位置づけてきたことの方が違和感を覚える。対潜ヘリを最大14機まで積め、同時に5機発着でき、司令部機能を備えた能力は元々「ヘリ空母」である。艦橋を右舷に寄せた「外観が空母型」の艦艇は1990年代に建造された海自輸送艦「おおすみ」に始まる。防衛庁時代に垂直離着陸の戦闘機シーハリアーの搭載も検討されたが、見送られた経緯がある。迫る相手に効果的な打撃を与えられる空母保有はある意味、海上自衛隊の「悲願」だった。約20年の道のりを写真で振り返った。(共同通信=柴田友明)
大型輸送艦「おおすみ」は建造当初、その形状から「空母」導入ではないかと騒がれた。基準排水量8900トン、全長約180メートル。ホーバークラフト型の揚陸艇LCACを搭載、医療設備などを備える。2004年にはイラクに派遣された陸上自衛隊に車両や装備品を届けるためクウェートに派遣。東日本大震災では被災地に救援物資を運んだ。自衛隊としても災害派遣の切り札として、運用PRしてきた面もある。陸自戦車も運べるLCACは米海軍が使う強襲揚陸艦でも運用されている。
輸送艦とネーミングするより、多用途揚陸艦とした方が理解しやすい。現在、おおすみ含め3隻の同型艦がある。ちなみに米強襲揚陸艦には海兵隊のF35B戦闘機が離発着している。
輸送艦「おおすみ」型、護衛艦「ひゅうが」型で空母スタイルの運用を進めてきた海自。米国で開発されたF35は最新鋭ステルス戦闘機という「枕ことば」がつくが、さまざまなニーズに応じて機能を集約させたため、打撃能力に疑問符が付くと指摘する専門家もいる。政治が決めた枠組みの中で、まだ紆余曲折はあるかもしれない。初期の訓練から部隊編成まで苦労を強いられるのは現場の隊員でもある。
【航空母艦】航空機を多数搭載し、海上で航空基地の機能を果たす軍艦で略称は空母。米国は原子炉で核燃料を燃やすことで動く原子力空母を11隻保有し、ロナルド・レーガンは神奈川県の米軍横須賀基地を拠点としている。中国は2012年に「遼寧」を初めて就役させた。海上自衛隊は艦首から艦尾まで甲板が貫く「空母型」の護衛艦4隻を保有しており、最大の「いずも」「かが」は全長248メートル、最大幅38メートル。(輸送艦は3隻)。陸自が配備する輸送機オスプレイの運用も可能。防衛省は「ヘリ運用能力は高いが攻撃機搭載能力はなく、空母ではない」としてきた。
【F35B戦闘機】レーダーで捉えにくいステルス性に優れた「第5世代機」と呼ばれ、短距離滑走による離陸、垂直着陸が可能な海兵隊用の戦闘機。米ロッキード・マーチンが開発主体。B型のほかに、空軍用のA型、海軍用のC型がある。日本政府はA型を次期主力戦闘機として42機取得することを決めている。