BMW代表イェンス・マルカルトが語る2019年DTM。ターボ化、プライベーターは……!?

 12月7日、その年の表彰等が行われる毎年恒例の『BMWモータースポーツ・シーズンレビュー』の会場で、BMWモータースポーツ代表のイェンス・マルカルトに対し、招待記者が今季や来季に向けての質疑応答の時間を設けられた。そのなかでマルカルトは、2019年からクラス1規定が導入され、スーパーGTとのジョイントイベントも予定されているDTMドイツツーリングカー選手権を中心に語った。

■「DTMは世界最高峰のツーリングカー選手権と改めて確信」

──メルセデスのDTM撤退が発表されて以降、(DTMを運営する)ITRやゲルハルト・ベルガー代表らとは、多くの話し合いをしてきたと思われるが。イェンス・マルカルト(以下JM):ITRおよびベルガー代表、そしてアウディスポーツ代表のディータ・ガス、そして(スーパーGTをプロモートする)GTアソシエイションの坂東正明代表らとは、次の時代のDTMへ向けて本当に数え切れないほどに話し合いや会合を重ね、今後のDTMにあり方について議論し、2018年は本当に大変多忙なシーズンだった。アストンマーチンのDTM史上初めての新規参入が決定し、2019年の新DTMに向けて準備を着々と行っており、今までの苦労は来季に活かせられると思っている。DTMは世界最高峰のツーリングカー選手権だと改めて確信しているところだ。

──BMWモータースポーツとして、2018年のDTMを振り返ると?JM:DTMへ再デビューした2012年以降、BMWというブランドの名を賭けてタイトル獲得に焦点を置いて戦ってきた。だが今季はノータイトルでシーズンを終えることになり、私自身が非常に失望した年でもあった。DTMは非常に僅差で戦われているだけに、それを制するには常にチーム全体がトップコンディションを維持し、決して弱点があっては勝てない、そんな厳しいレースなのだと改めて思い知らされた。

──今季で印象に残ったレースシーンは?JM:開幕戦のホッケンハイムでティモ・グロックとメルセデスが展開した激しいバトル、マルコ・ウィットマンの地元ノリスリンクでの初勝利、ルーキーのジョエル・エリクソンが飾ったミサノのナイトレースの初優勝、同じくミサノでゲストドライバーとして参戦したアレックス・ザナルディの5位入賞。そうして感動や最高潮に盛り上がったシーンが数多くあったにも関わらず、最終戦のホッケンハイムはタイトル獲得に絡むランキングからはかけ離れ、『参加するのみ』という状態になったのは非常に悔しかった。来年はこの状況から脱すべく、開幕までに十分な準備を整えたい。

──クラス1へ向けて、来季からはいよいよ2リッター直4直噴ターボエンジンがDTMにも採用されるが、それに対しての思いは?JM:BMWにとってもDTMにとっても、新しいチャレンジだ。来季はターボエンジンになることでさらにパワーアップし、よりエキサイトさいたバトルが期待できると思う。BMWのレーシングカーに最初にターボエンジンが搭載されたのは、私が2歳の頃の『2002』に搭載されたターボエンジンが始まりだ。今回ちょうど50周年を迎えることから、DTMのテスト車両に掲載されている『Turbo』のフォントは50年前の当時のものを使用して、オマージュとしている。

BMW M4 DTMのフロント。グリル内も細かく整流されていることが分かる。
新型M4 DTMのリヤ。『turbo』の文字が躍る

■プライベーター、そしてターボ車開発の苦労

──来季はいよいよクラス1規定でのDTMレース開催となりますねJM:ターボエンジン、そしてクラス1規定が正式に導入され、史上初となる日本のスーパーGTとのジョイントイベントが予定されており、その時を非常に心待ちにしている。ファンは今までよりもワクワクドキドキなドラマチックなレースを期待してもらえる。

──すでにアウディはDTM最終戦のホッケンハイムで来季から新規参入するプライベーターチームを発表したが、BMWのカスタマーチームの展開は?JM:現時点では、どのチームが2019年のDTMカスタマーチームとなるということはまだ発表できる段階ではない。だが、そのプライベーターがよりいいコンディションでDTMへ参入できるように、準備段階のさまざまな件についてサポートしている。おそらく今後数週間後には解決策が見つかるだろうと考えている。

──DTM最終戦のホッケンハイムでは「今後4〜6週間後にカスタマーチームを発表する」と明言していたが、今になっても明確な答えが出てこないという状況には何が関係しているのか?JM:2012年にBMWがDTMへ再参入してからは、今季まで完全なるワークス体制での参戦だったが、プライベーターがDTMのプラットフォームに対し、何もかもイチから準備して始める状況は容易ではない。ドライバーの選出やスポンサーをはじめ、プライベーターにとっては短期間の間に金銭的な面を含めて、工面や調整をすることはスムーズにはいかない上に、それ以外にも数多くの準備を要する。BMWのプライベーター候補としては2チームあり、2チームが1台ずつの体制という考えもあるが、1チームに絞り2台体制という案もあり、どちらになるかは今後のさらなる調整によって決定される。2019年にプライベーター用に用意する車両は2台ということには変わりない。

──DTMのニューマシンの開発状況は?JM:新型のパワートレインの実走テストがやっと始まったばかりだ。その前はごくわずなロールアウトが社内のテストコースであったのみで、路面でどう動くのか、冷却装置が新エンジンに対して適合しているのか等を確認し、エストリルでのテストで数多くの項目をチェックし、それを持ち帰って精査した。ヘレスのテストではそれをさらに発展させて挑み、一歩ずつ段階を重ねている状態だ。ベンチマークやシミュレーターではもちろん事前に数多くのテストをしているものの、実走テストでは必ずしもそのとおりにはいかない上に、より細部のバランスまでじっくりとマシンと向き合わなければならない。

 例えば、BMWで言うと今季モデルのキドニーグリルはすべて閉じられているが、来季モデルはフルオープン。マシンの中へ空気を取り込む、またそれを排出するありとあらゆる箇所に最も神経を注ぐといった新規の研究集中する箇所があるなど、まったく新しいコンセプトに焦点を注いでいる。ホモロゲーション取得までの残りわずかの月日に総力を上げなければいけない。

──ニューマシンはポルトガルのテストでは最高速で292km/hを記録しましたが、来年のホッケンハイムの開幕戦では300km/h越えを期待できそうか?JM:さぁ、どうだろうか(笑)。今後のマシンのポテンシャルの成長に期待したい。マシン、それもエンジンがまったく別物の新車になることで、ドライバーはそのスタイルやタイヤマネージメントもすべて新しくする必要がある上に、現状態のテスト結果だけでは本番にどれだけのポテンシャルが発揮できるのか……。まだはっきりとは見えていない。

──季は勝つメーカーやマシンにかなり偏りがあったが、来季は勝つチャンスは平等になると思うか?JM:BMW、アウディ、アストンマーチンにとってすべてが新規定での参戦となる2019年、いちばんマシンや規則を深く理解し、速さや車両が安定してポテンシャルを出すポイントを見出した者だけが前に抜き出る事ができると思う。プロの世界では『まだマシンの理解ができていない』等という言い訳はまったく通用しない。アストンマーチンは非常に経験豊かなパートナーであるHWAがサポートしており、DTM初参戦ではあるが素晴らしいマシンを用意してくると確信しているが、彼らがDTMに参戦を決めてからまだ時間的余裕がなく、状況を語るにはまだ早過ぎると思う。

2リッター直4直噴ターボを積む新型アウディRS5 DTM。グリルやボンネットでターボ対応の処理が伝わる。
BMW M4 DTMのリヤ

■「“ハイパーカー”は我々の望むものとは違う」

──WEC世界耐久選手権について、2020年に導入されるWECに導入される“ハイパーカー”規定により、かねてからさまざまなメーカーの新規参入が噂されており、その中でもBMWもハイパーカーでの参戦を視野に密かに開発をしているのでは? との噂がされているが、その噂は本当なのか?JM:LM-GTEクラスには強いトップブランドが集結しており、僅差の激しい戦いで、この強敵の中でのチャレンジのし甲斐や意義を感じているし、M8 GTEをさらに成熟させてポテンシャルを上げなければいけない。

 ハイパーカーのレギュレーションは5年間のコスト面も考えてのことだとは理解するが、開発初期には特に駆動系の開発により多くの時間と費用が費やされると予想される、それらを念頭に入れて費用を概算すると、ACOが提示する費用の2~2.5倍の費用を用意することが必須となってくるだろう。そのため、BMWワークスとしてのハイパーカークラスの参戦は考えていない。また、ハイパーカーはLMP1レベルのパフォーマンスに対してのGTマシン風なデザインであり、我々が望む『レーシングカー』とは違っていた。

81号車BMW M8 GTE

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