『アメリカ』橋爪大三郎、大澤真幸著 キリスト教とプラグマティズムの国

 キリスト教、仏教、中国、日本をテーマにした対談本で次々ベストセラーを放ってきた社会学者の最強コンビが今回選んだテーマは「アメリカ」だ。

 日本は「アメリカへの精神的な依存度」においても「アメリカを理解していない程度」においても世界で突出しているという。日本にも深く関わるこの覇権国を深層から理解するために、2人はキリスト教とプラグマティズムという、いずれも日本人にはなじみの薄い切り口から迫った。

 アメリカを知るには、思い切って「キリスト教を本気で信じている人たちの国」と見なすことが重要だと大澤は言う。なかでもさまざまな教派・教団が存在し、聖書に基づいてすべては神の意思が支配すると信じるプロテスタントだ。

 独立戦争で民主主義国家を実現したのも、奴隷制度が残ったのも、連邦より州の独立性が強いのも、行動を重視するプラグマティズムが広まったのも、資本主義が大成功し社会主義が広まらないのも、すべてプロテスタントの信仰から導き出される。豊かな学識に基づくその理路の展開が本書最大の読みどころとなる。

 アメリカは圧倒的な世界標準でありながら、世界に例を見ない特異な国だ。日本は2発の原子爆弾を落とされたにもかかわらず、戦後一貫して隷従と愛着を示してきた。知れば知るほど不思議な存在に思えてくる。

 本書を読んで、自分がいかにアメリカを理解できていないかがよく分かった。浅からぬ関係と思っていただけに、その衝撃は大きい。

(河出新書 920円+税)=片岡義博

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