「災」の年

 「次」が来るんじゃないかと、人々は心配そうに空を見上げたという。何かが空から降るわけではない。建物から路上に避難した人たちが、余震におびえて思わず空を仰いだ、とニュースで報じていた。6月、大阪府北部で震度6弱の地震が起きて、何時間か後のことだった▲嘆くように、訴えるように上を向くことを「天を仰ぐ」と言う。また何かあるのかとおびえ、もう何もありませんようにと祈るとき、人は本当に天を仰ぐのだと、ニュースに見入った覚えがある▲全国そこかしこで、数知れない人が空を見上げたことだろう。この1年を一つの漢字で表す「今年の漢字」に「災」が選ばれた。振り返れば次から次へと、列島が自然災害にやられ続けた年だった▲西日本豪雨があった。災害級の猛暑にさいなまれた。列島を続けざまに大型台風が襲った。近畿などで台風が大暴れした直後、北海道で大地震が…と、数え上げれば切りがない▲「天変地異の日常化」という不穏な言葉がつい浮かぶ、と9月に小欄に書いた。いつ、どこで、何が起きるとも知れない災害に警戒と備えを-。改めて肝に銘じた年でもある▲ため息交じりに天を仰ぐことと、うつむかず上を向くことは、似ているようでずいぶん違う。災いの年もあと半月、上を向く難しさを思い、大切さを思う。(徹)

© 株式会社長崎新聞社