熊本大大学院准教授の前田さん 熊本地震の避難所経験をマンガに てきぱき姿に感銘、住民困難へ立ち向かう

©株式会社熊本日日新聞社

熊本地震の体験をマンガにまとめ、出版した熊本大教職大学院准教授の前田康裕さん=熊本市中央区
「まんがで知る教師の学び3 学校と社会の幸福論」の一場面。地震の描写も自身の体験を基にした

 水道管が壊れ水浸しの校舎、被災者であふれる校庭-。熊本大教職大学院の准教授前田康裕さん(56)は熊本地震発生時、熊本市の向山小で教頭として対応に直面した。適切な指示もできず迷っていた時、てきぱきと避難所運営などに動く地元の人たちの姿に、強い絆を実感したという。美術教員の経験を生かし、地震で学んだ地域づくりの大切さをマンガにして伝えている。

 2016年4月14日夜、前田さんは同市北区龍田の自宅で前震に襲われた。本棚は倒れ、食器は散乱。直後に学校の近くに住む職員から電話がかかってきた。「水道管が壊れ、水が噴き出しています」。妻の帰宅を待って学校に駆け付けたという。

 作品は「まんがで知る教師の学び3 学校と社会の幸福論」(さくら社)。前田さんが16年に出版を始めたシリーズの第3弾で、初めて熊本地震の経験を盛り込んだ。

 物語の舞台は、大磯賀史[おおいそがし]という教頭が勤務する架空の小学校。2度の激震に見舞われ、学校には千人を超す避難者が押し寄せる。

 「住民のことは住民に任せてください」。何もできず、ぼうぜんとするだけの大磯に、校区の自治協議会メンバーが声をかけた。避難所となった学校で、テントの設営や物資の配給など協力して困難に向かう彼らの姿に大磯は感銘を受ける。

 地震の描写や住民とのやりとりは、前田さんが実際に経験したことが基になっている。「被災直後は行政も大変な状況だった。できることは自分たちでやるという住民を見て、地域づくりは『ひとごと』ではなく『自分ごと』だと痛感した」

 地震では多くの学校が避難所として利用されたが、運営を学校任せにしたケースも少なくなかった。向山校区自治協議会長の田上一成さん(76)は「地域を守るという意識が住民に浸透していたので大丈夫だと思った」と自主運営に挑んだ理由を明かす。

 前田さんも、夏祭りなど、地域で続く催しが住民をつなぐ役割を担っていることに気づかされた。今年2月に出版した同作品は初版7千部を完売。これまでに9千部を発行し、教育書としては異例の売り上げという。

 前田さんは現在、地域の過疎問題に向き合う学校をテーマに新作を執筆中。「より良い社会をつくるには、一人一人が主体的に地域に関わることが必要」という地震から得た教訓が下敷きだ。

 「学校で働く人が、どう地域と向き合えばいいかを考えるきっかけにしたい」。マンガの力を信じ、前田さんは描き続ける。(社会部・臼杵大介)

 ※「まんがで知る教師の学び3 学校と社会の幸福論」は、A5判・176ページ。1800円(税別)。さくら社TEL03(6272)6715。

(2018年12月14日付 熊本日日新聞朝刊掲載)