長崎歴史文化協会 来年3月で幕 越中さん 36年振り返る

 「長崎そのものが一つの文化」-。長きにわたり長崎学の研究や発信に貢献してきた長崎歴史文化協会が、来年3月末で36年の歴史に幕を閉じる。発足当初から理事長を務める郷土史家の越中哲也さん(97)に、これまでの歩みを振り返ってもらった。

 長崎県長崎市桶屋町にある事務所は毎週月、水、金曜日に開いており、そこにはいつも越中さんの姿がある。「越中先生、こんにちは」。約110人の会員をはじめ全国各地からその人柄や知識を慕ってひっきりなしに人が訪れ、歴史談議や世間話に花を咲かせていく。

「長崎の人が集まって世間話をすることが長崎学」と語る越中さん=長崎歴史文化協会事務所

 同協会は、越中さんが旧市立博物館の館長を定年退職した翌年の1982年、当時の十八銀行頭取・故清島省三さんの肝いりで発足した。「この土地とみごとに調和している人文的風物の根源を探り、広くその成果を地域の皆さんとともにいたしたい」。初代会長となった清島さんは、同協会の発行する短信「ながさきの空」第1号でそう寄せている。

 それ以来同行が長年、公会堂前出張所2階を事務所として提供し、常駐スタッフも派遣している。越中さんは「十八銀行が全面的に支援して、好きなようにしていいと言ってくれたから、これまで活動できた」と感謝する。

 発足当初から越中さんが抱いてきたのは、「長崎学を一般の人に」という思いだった。戦後の何もない時期、故古賀十二郎さんをはじめとした郷土史家らが県立長崎図書館に集まって、ただ自由に語らった。“遊び”として参加していた越中さんは、「長崎の人が集まって世間話をすることが長崎学。あの時の雰囲気を協会でもう一度再現したかった」と話す。

 その思いを体現し、同協会は越中さんを中心にした社交場のようにさまざまな人が集う。年間の訪問者数は延べ約2千人に上る。作家の故遠藤周作さんやなかにし礼さんといった著名な文化人も、調査などのために数多く訪れたという。

 また会員向けの古文書や食文化といった各種講座の開催や、機関紙の発行といった活動も充実。毎週月曜の「長崎学を学ぶ講座」は、これまでに570回以上開き、毎回さまざまな分野の講師を招いて長崎の歴史文化を学んでいる。

 「長崎の歴史が日本の文化にどう影響を与えて、それが現代にどのようにつながっているのか。基礎的なことをここで皆さんと考えてきた」

 越中さんの歴史とともに同協会は幕を閉じる。時を重ねるように、戦後の長崎学の拠点だった県立長崎図書館も11月末で休館した。「時代の流れでしょうね」と越中さん。「託された役割は十分に果たせた。また次に、長崎学の“幕”が自然に上がる時が来るでしょう」。そう語る表情は充実感をたたえている。

1982年5月に開かれた長崎歴史文化協会の発会式=長崎市銅座町

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