がんで亡くなった妻の望み患者団体を資金支援 遺贈寄付(上)

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がんで亡くなった妻典子さんの手記を手に取る加納さん。生前にかなえられなかった思いを実現すべく、がん患者団体を支援する基金に遺産を拠出した(京都市左京区)

 親族や自身の死後に残る財産を、公共的な活動を行う団体に寄贈する「遺贈寄付」という仕組みがある。相続人が故人の思いをくんで遺産の一部を提供したり、生前のうちに遺贈する団体を指定したりする方法があり、非営利団体による寄付先の仲介などの支援も行われている。具体的な事例を紹介するとともに、手続きや制度面の課題を掘り下げる。

■悩み分かち合う仲間見つからず

 「治療の苦痛に加え、精神的なつらさもあったはず」。元京都府職員の加納伸晃さん(62)=京都市左京区=は、妻で同僚だった典子さんのことをそう振り返る。働き盛りの48歳だった2009年、鼻のがんである「嗅神経芽細胞腫」と診断された。さまざまな治療のかいなく、13年に52歳で亡くなった。

 典子さんは、手術の影響などで言葉を話しにくくなったことや、見た目が変化したことに思い悩んだ。同じ病気の女性患者と苦しい気持ちを分かち合いたかったが、嗅神経芽細胞腫を含む頭頸(とうけい)部がんは患者数がそもそも少ないうえ、男性の割合が高い。医師に尋ねたり、インターネットで調べたりして京都で活動する女性患者団体を探したものの、ぴったり合うグループは見つからなかった。

 加納さんは、典子さんの死後、残された手記につづられた苦悩を読み、妻の生前の望みをかなえたいと思った。遺産の一部でがん患者の団体を援助しようと考え、仕事でつながりがあった公益財団法人「京都地域創造基金」(上京区)に助言を求めた。市民から集めた寄付で基金を設立し、さまざまな公的団体を支援するコミュニティー財団と呼ばれる組織だ。相談に乗った可児卓馬専務理事は、がん患者のグループを調べたり、加納さんと一緒に活動を見学したりして、寄付先にふさわしい団体を見つけるのに手を尽くし、遺贈の仕組みも立案した。

 典子さんの死去から2年後の15年、同基金は、加納さんが遺産から拠出した約60万円で「がん基金」を設立。京都で活動する頭頸部がん患者と家族の会や、がん患者の就労問題に取り組むNPO法人など3団体に資金の提供を始めた。加納さんは「妻だったらこうするだろうと思い描きながら支援先を選んだ」と感慨深げに話す。自身の死後も遺産の一部をがん基金に寄贈すると決め、意思を示す公正証書も作成した。

■高い関心も課題多く

 NPO法人「国境なき医師団日本」の調査によると、「遺贈をしてもよい」と考える人は60~70代で50%近い。京都地域創造基金は、遺贈の相談に延べ26件携わり、生活困窮家庭の支援や子どもの孤立防止などの活動への寄付に結びつけてきた。可児専務理事は「遺贈寄付への関心は高まっている」と話す。

 ただ、遺贈には多くの準備や手続きが要る。生前に寄付する意向を示す場合は遺言の作成が重要で、公的に効力が証明される公正証書が望ましい。相続権者が最低限の遺産取得分を主張できる遺留処分も考慮しないといけない。相続した財産を寄付する場合、国や、自治体、認定NPO法人などの税制優遇団体以外へは寄付者に相続税がかかるなど、税制の知識も必要だ。

 こうした手続きをスムーズに進めるためにも、可児専務理事は「遺贈寄付に詳しいコミュニティー財団や弁護士ら専門家に相談してほしい」と助言する。