澤田社長 IR「慎重」発言 行政と微妙な温度差 HTBの運営主体に否定的

 長崎県と佐世保市が誘致を目指す、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の候補地、ハウステンボス(HTB)の澤田秀雄社長が、12月の決算会見で「慎重にやらないといけない」と発言した。地域活性化の「起爆剤」と位置付ける行政と、収益性を重視する経営者との、微妙な“温度差”が表面化した形だ。

 「IRは慎重にやらないといけない。何千億円もの投資が必要。リターンが取れるのか」。3日に開かれたHTBの決算会見。記者の質問に、澤田社長は淡々と語った。さらにカジノが世界中にあることに触れ「よほど差別化したものを造らないと、競争に負けてしまう」と指摘。ただ「県と市には協力はする」と付け加えることも忘れなかった。

 関係者によると、澤田社長はIR構想が持ち上がった当初、主体的に運営することに意欲的だったとされる。しかし、投資規模などを考慮してか、現在ではHTBが運営主体になることには否定的とされている。

 県・佐世保市IR推進協議会は昨年12月から2月まで、民間事業者にアイデアを募集。長崎県によると、38社から提案があり、施設全体の計画を提出した14社(うち海外8社)は建設投資額について、約1千億円から約3千億円と試算した。HTBは提案をしなかった。
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 IRはカジノに加え、ホテルや国際会議場も併設する。国はIR実施法の成立を踏まえ、来年の夏にも、具体的な施設の規模などを盛り込んだ「基本方針」を公表する。長崎県はこれを受け、IRを運営する事業者を公募する際に示す「実施方針」を策定。その後、選定した事業者とともに区域整備計画を作成し、認定申請する流れになっている。

 長崎県や佐世保市が公募前に特定の業者に接触することは“ご法度”だ。このため、長崎県などはIRを整備する土地を所有する「地権者」としてHTBと協議を続ける方針。

 澤田社長の発言に対し、佐世保市の朝長則男市長は「驚きは感じない」と話す。朝長市長は夏ごろ、澤田社長から「HTBはIR事業の運営主体にはならない」という意向を聞いていたことを明かす。「誘致の協力をしてもらえるほか、出資者として参加する可能性はある。(運営主体を目指す)ほかの企業は手を挙げやすくなるのではないか」と前向きにとらえる。長崎県IR推進室も「後退感はない」としている。

 それでも佐世保市内のある経済関係者は「誘致の意向は同じだが、官民でIRの波及効果や取り組みの進め方、優先度など、事業の捉え方にやや違いがある」と指摘。今回の澤田発言もその一例とみるが、「立場が違うので簡単ではないが、官民のばらつきを誰かがまとめないといけないのだが」と漏らした。

決算会見で、記者からの質問に答える澤田社長(左)=3日、ハウステンボス
IR開業までの流れ

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