DTM:ブノワ・トレルイエも参加。3メーカーが揃う“最後の”ルーキーテスト実施

 スペインのヘレスで12月10~12日に開催されたDTMドイツツーリングカー選手権の合同ヤングドライバーテストに、アウディ、BMW、そして2018年シーズン限りで活動を終えるメルセデスが参加。3メーカーが一堂に会する最後のテストに、総勢22名のドライバーが集まった。

 DTMを主宰するITR.e.vが設けたヤングドライバーテストに向け、BMWモータースポーツは4名のルーキーを招聘。その若手たちはティモ・グロックが2018年シーズンで使用した2018年型BMW M4 DTMをシェア。さらに2019年に向け新開発の直列4気筒直噴ターボを搭載した新クラス1規定開発車両の都合2台をトラックに持ち込んだ。

 ルーキーシーズンを過ごしたフィリップ・エンゲを基準ドライバーとして、交代でステアリングを握ったミケル・ジェンセン、ニック・イエロリー、シェルドン・ファン・デル・リンデ、そしてニッキー・キャッツバーグの4名は、初体験のクラス1車両に対し「高速コーナーのダウンフォースが異次元」「カーボンブレーキのストッピングパワーが驚異的」「これまで慣れ親しんできたツーリングカーとは何もかもが異なる」と、その性能に驚きのコメントを残した。

「同じBMWでもM8 GTEやM6 GT3とは何もかもが違っていて、とくにコーナーではとてつもなく速いスピードを維持できることに驚いた」と語るのは、WEC世界耐久選手権でワークスカーをドライブし、2019年はWTCR世界ツーリングカー・カップにも参戦するキャッツバーグ。

「ダウンフォースレベルがとてつもなく高い領域にあり、ブレーキングに慣れるまで少し時間が必要なほどだった。このBMW M4 DTMは本当に印象的なマシンで、先輩たちからは『ドライブすると本当にクールなマシンだ』とは聞いていたけど、その想像をはるかに超えた期待以上のクルマだったよ」

 その一方で、2019年型モデルの開発プログラムを粛々と進め、とくに新エンジンのクーリングや補機類の機能確認のプログラムを進めたマルコ・ウィットマン、ブルーノ・シュペングラーの両レギュラーも、大きなトラブルなくマイレージを重ねて収穫の多いテストになったと満足げな表情をみせた。

「今回のテストにおける僕たちの仕事は新車開発を進めることで、その焦点はターボエンジンにあった。このエンジンをよりよく理解し、距離を重ねるごとにファインチューンを重ねる必要があったからね」と説明したウィットマン。

「エンジニア、チーム、そして僕たちドライバーには新シーズンを前に数多くの課題と仕事が積み上がっている。つまりこの忙しさこそ、DTMが完全に新しい時代に踏み出すことを象徴している、と言っていいね」

2019年型の直列4気筒直噴ターボを搭載した新クラス1規定モデルもテストを実施
ニッキー・キャッツバーグらは2018年型モデルを使用してクラス1車両初体験となった
出番を終えたルーキーも、2019年型直噴ターボのテストをコースサイドで見守った

 同じく新車の開発テストを担当したシュペングラーも「来るべきシーズンに向け、新型M4 DTMの開発テストを進めることができた。コンディションも一貫していてテストはうまく進んだし、多くのラップを消化することができて開発計画は順調な進捗をみせたと言えるね」と付け加えた。

 テスト前月の11月末には、ブノワ・トレルイエ、アンドレアス・バッケルド、フレデリック・バービッシュ、マッタ・ドゥルディ、フェルディナンド・ハプスブルク、ジョナサン・アバディーンの6名が参加することを発表していたアウディスポーツは、12月に入ってからウイリアムズF1に所属していたロシア人ドライバー、セルゲイ・シロトキンの追加をアナウンス。

 BMWと同じく2018年モデルながら、アウディスポーツ・チーム・ロズベルグ、そして新カスタマーのチームWRT用となる2台のRS5 DTMが用意された。

 こちらもDTMレギュラーのジェイミー・グリーンを基準ドライバーとしてテストに臨んだ7名のルーキーたちは、アバディーンが最多の220ラップを走破したのを筆頭にシロトキンが91周、トレルイエも70周を走り切るなど、総ラップ数600周を超えるマイレージを記録。充実の初走行を終えることとなった。

「僕は子供の頃からDTMをテレビで観戦していたから、このテストを本当に心待ちにしていたし、すごく興奮したよ」と語るのは、遅れてのテスト参加が決まったシロトキン。

「RS5 DTMのシートに座れたのはユニークな経験だったけど、実はかなりトリッキーだった。自分のスティントでは最後の最後まで完璧なフィーリングをみつけられなかったんだ」

「僕はこうした種類のレースカーをこれまで経験したことがなくて、一番近いと感じたのはF3だね。エンジニアとメカニックも僕を全力でサポートしてくれて、短い時間のなかでも快適に感じられるよう努力してくれた。改めてみんなにお礼を言いたい」

 また、WorldRX世界ラリークロス選手権でトップドライバーとして活躍してきたバッケルドは、このRS5 DTMを「僕のキャリアにとって完全に新しい章となる経験」だと評した。

「事前にチーム・ロズベルグのシミュレーターを経験してきたとはいえ、このDTMマシンをトラック上で走らせるのは完全に異次元の体験だった。RS5 DTMのブレーキングをどれほど遅らせることができるかは完全に理解の範疇を超えていて、その点でジェイミー(グリーン)やレネ(ラスト)の助言に助けられたよ」

急遽、アウディスポーツのテストに合流し、RS5 DTMをドライブしたセルゲイ・シロトキン
2019年型アウディRS5 DTMは、トラブルなく3日間で1457kmのマイレージを走破
2018年はウイリアムズF1に所属したセルゲイ・シロトキンは、ロバート・クビカ加入でシートを喪失している

 そして70周を走破したトレルイエは「このテストは、僕にスーパーGTやLMP1での日々を思い出させてくれた」と振り返った。

「とくに高速コーナーでの速さとダウンフォースは懐かしいね。以前、タクシーライドでRS5 DTMをドライブした経験があるけど、そのシチュエーションとは比べられない。セットアップを微調整して自分のスタイルに合わせていく作業は心の底から楽しかった。アウディスポーツとチーム・ロズベルグの完璧なオーガナイズに感謝したい」

 2019年型スペックの直噴ターボモデルをテストしたマイク・ロッケンフェラーとニコ・ミューラーは、ロッケンフェラーが2日間で211周、ミューラーが1日で118周と、こちらも充実のマイレージを重ねた。

 アウディスポーツでプロジェクトリーダーを務めるアンドレアス・ルースも「前回のエストリルに続き、ここへレスでも充実のテストをこなすことができた」と、テスト成果の充実度を口にした。

「まず7人のルーキー全員が素晴らしい仕事をし、その誰もがRS5 DTMのパフォ−マンスに驚き、笑顔を見せているのがとてもうれしかった。とくにセルゲイ・シロトキンのように最新のF1を経験しているドライバーでさえ、マシンを降りて興奮している様子を見られるのは楽しいものだね」

「19年型の開発車両では多くのテスト項目を確認することもできた。この3日間で1457kmのマイレージを走破し、大きな問題も発生していないのは良い兆候だ。この長いウインターブレイクの期間でテスト結果を分析し、プログラムの進捗に役立てるとともに、(2019年)3月のへレス(DTM公式プレシーズンテスト)により良い形で参加できるよう取り組んでいきたい」

 そしてこれが公式なDTMでの最終セッションとなったメルセデスAMGは、2018年にワークスドライバーを務めたダニエル・ジュンカデラを基準に、ジェイク・デニス、ジェイク・ヒューズ、トーマス・プレイニング、そしてアウディのテストにも参加したフェルディナンド・ハプスブルグの4名を走らせた。

 このメルセデスAMGを引き継ぐ形で2019年からシリーズに参入するアストンマーチンは、メルセデス陣営の前線部隊を担ったHWAとRモータースポーツがチーム運営を行う予定。現時点で2019年型のクラス1車両はHWAとスイスのAFレーシングが協業で製作作業にあたっており、その完成は3月のへレステスト直前になるとみられている。

エマニュエル・ピロからレクチャーを受けるWorldRXドライバーのアンドレアス・バッケルド
「スーパーGTを思い出した」と語ったブノワ・トレルイエ
最後のテスト参加となったメルセデスAMGはダニエル・ジュンカデラがリファレンスを務めた

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