ボルボV90クロスカントリーで東京から試される大地”北海道”へ。1400km、グランドツーリングの旅:前編

ボルボ V90クロスカントリー

編集部新規加入のための通過儀礼? ボルボでのロングドライブが始まる

ボルボは、生活をともにするクルマという印象がある。ライフスタイルの中に取り入れて使い込んでいくことで、パートナーや家族の一員という位置づけになるブランドなのだと思う。そんなボルボから、「北海道まで走りませんか?」というオファーがきた。

ちなみに旅程はというと、初日は東京から青森港まで走り、フェリーで函館へと渡って1泊。2日目は函館をスタートして北海道内を自由に走り、最終的には夜に新千歳空港でゴールというもの。最短ルートで計算しても1100kmを越えるロングドライブ。飛んでしまえばわずか2時間程度の東京→北海道・新千歳空港間を、1泊2日で走り切ろうというこの企画。ボルボの真価が問われるとともに、ドライバーの資質も問われる旅だ。今回ステアリングを握るのは、編集部に新たに加わった副編K。T編集長から「北海道行ってきて、ボルボで」と極めて簡単な説明だけを受け取った僕は、このロングドライブをオートックワン編集部員になるためのイニシエーション(通過儀礼)だと認識して、走り出すことにした。

ボルボ V90クロスカントリー

借り出したのは、ボルボのフルサイズステーションワゴン、V90クロスカントリー D4 AWD Summum。XCシリーズのラインアップが充実したおかげで、すっかりSUVブランド的な立ち位置になっているボルボだが、850やV70といったステーションワゴンで一世を風靡した時代を見てきた世代(つまりはオッサン)である副編Kにとっては、ボルボ=ワゴンのイメージが強い。ついでにいうと、過去には日産 セフィーロ ワゴン(『お元気ですか?』の次のFFベース)、アウディ オールロードクワトロ(初代)、VW パサートR36と乗り継いだこともあり、ステーションワゴンは個人的にも大好物。

まずは青森港までの中間地点である仙台を目指した。とくに目的があるわけではないが、なんとなくお昼に牛タンでも食べようか、と思ったのがその主たる理由。行き当たりばったり感は否めない。ちなみに試乗車は、以前編集部でテストした車両と同じ個体。当時よりも走行距離が伸び、いわゆるアタリがついて各部が馴染んだようで、乗り心地はとても滑らかな印象だ。

ゆったりとした走りと包み込まれるような安心感

ボルボ V90クロスカントリー
ボルボ V90クロスカントリー

首都高速を駆け上がって、継ぎ目だらけの5号線から大橋ジャンクションのループを抜け、C2へ。程よく遮音が効いていて、アイドリング時にはそれなりに聞こえてきていたD4の直噴ディーゼルターボエンジンが発するガラガラとした音があまり耳に届いてこない。長距離を走るとさまざまなノイズを長時間に渡って聞き続けることになる。そしてその音で疲れてしまうことがあるが、風切り音も含めてV90クロスカントリーは心地いい空間音の作り方をしているようだ。V90よりも車高が55ミリ上がっていることもあって、たっぷりとしたストロークでサスペンションがよく動く。ドライブモードは「コンフォート」を選択し、ステアリングを東北道へと向けた。

D4に搭載される直列4気筒2リッター直噴クリーンディーゼルターボエンジンは、190PS/400N・mを発揮する。1870kgの車重に対して絶対的なパワー感はないが、低回転域からの十分なトルクで遅いと感じることはない。もう少しパンチがあってもいいとも思うが、V90クロスカントリーのどこかしら優しく包みこむような乗り味にはこの特性がマッチしているだろう。100km/hでわずか1500rpm+アルファというエンジン回転数だから、車内は平和そのもの。フラットで凪いだ水面を進んでいく船のように滑らかに走っていく。トルクを発揮する回転域に入れておけば、ストレスはほぼ皆無だ。

今回のロングドライブでは、東北地方や北海道内で雪道を走ることが想定されていたため、タイヤはコンチネンタルのスタッドレス(バイキングコンタクト6)に交換されていた。そのこともあり、路面とのコンタクトはサマータイヤよりも柔らかめ。しかし腰砕け感はなく、高速性能に優れた欧州スタッドレスの剛性感と、V90クロスカントリーのサスペンションがよくマッチングしているように思う。

ボルボ V90クロスカントリー
ボルボ V90クロスカントリー

先行する車両を追従して速度を保つアダプティブクルーズコントロールに加えて、車線にあわせてステアリング操作をサポートしてくれるパイロットアシストを機能させれば、ドライバーの負担は圧倒的に軽減される。走りなれない高速道路は、いつも以上の気遣いが必要になる。だからこそ、クルマに任せることができることは任せてしまうのがいい。朝焼けのなか北上するクルマの流れに乗って、V90クロスカントリーは仙台へと滑るように走っていく。

ボルボ V90クロスカントリー
ボルボ V90クロスカントリー

筆者は、普段でもあまり高速道路では休憩を挟まず、行けるところまでノンストップで走って行ってしまうタイプなのだが、今回はV90クロスカントリーの性格もあって、まさに仙台まで一気に走り切ってしまいそうだった。しかし同行するカメラマンの要望もあり、パーキングで適当に休憩を挟むことにした。何の気なしに入ったのは阿武隈PA。松尾芭蕉の旅から300年を記念した石碑があり、『是よりみちのく』の文字に旅情を覚える。酪王カフェオレもお約束だ。

ボルボ V90クロスカントリー

下調べせずに気の向くまま。そんな旅もまた楽しい

郡山、二本松、福島と、東北道は比較的にアールのきついコーナーが続く。しかしV90クロスカントリーは安定の2文字。ボルボ・カー・ジャパンが用意してくれたオリジナルのCDが耳に心地よく、男二人ということを除けば、何の不満もない至極快適なドライブが続く。ちなみにこの試乗車にはオプションとなるBowers&Wilkins;プレミアムサウンド・オーディオシステムが装着されていた。19個ものスピーカーと1400Wに及ぶパワーアンプにより、圧倒的な臨場感で聴かせることもできれば、耳に心地いい空間を作ることも可能なシステムだ。長旅のお供としては最高の環境と言えよう。

しかしさすがに暇なので、再び休憩することにした。高速道路上のサービスエリアやパーキングだけでは味気ないので、2回目の休憩は菅生サーキットのある村田ICから出てすぐの道の駅村田へ。途中で降りても距離割引は継続できるETC2.0の恩恵がうれしい。のんびりとした空気感が漂うなか、地元の農家の方たちが持ち寄った野菜などを眺めつつ小休止。

ボルボ V90クロスカントリー

再び東北道へと戻り、仙台を目指す。村田インターから仙台インターまでは上り下りも多く積極的に操る必要が出てきた。V90クロスカントリーは、長いホイールベースで直進性は強い。しかし決して回頭性が鈍いわけではなく、ナチュラルなハンドリングで走り続けることができた。コーナーやアップダウンでリズムが崩れないから、ロングドライブでも疲労が少なくてすむ。ドライブモードも東京からずっとコンフォートに入れっぱなしだが、とくに不満はない。やがて無事に到着した仙台だったが、実は肝心の牛タン屋は早くても午前11時の開店の模様。またしても下調べしていない行き当たりばったりが露呈した。開店まではまだしばし時間がある。どうするか…。

ふと頭によぎったのは、青森・八戸のお店。カメラマン氏にこんなのもありますよと「ヒラメ漬け丼」の写真を見せたところ、「牛タンは別の時でもチャンスはある。コッチだっ!」と即決、進路変更と相成った。あと30分もすれば開店しそうな牛タン屋を捨てて、なんと八戸まで行くことになったのだ。半年ほど前ボルボXC60で金沢~東京間を旅をした飯田裕子さんは、『気ままな旅は腹時計に支配されているのである(苦笑)』との名言を残したが、この時点ではまだ我々の腹時計に余裕があった。仙台から八戸までは310km。八戸から青森港までは90km。つまり現在11時前で、残り時間は5時間半、距離にして約400kmを残している。ちなみに直接青森港へ行くとすると、360km。わずか40kmの遠回りなら全然問題はない。と、この時点までは思っていた。

長い長いドライブの末にたどり着いた感動の昼ご飯

ボルボ V90クロスカントリー

そうと決まれば、東北道に戻ってさらに北へ向かおう。北上を続けると制限速度が110km/hに引き上げられた試験区間がやってきた。花巻南インターから盛岡南インターまでの約27km、アダプティブクルーズコントロールを引き上げ、流れに合わせて走っていく。わずか10km/hのプラス、速度域の高い欧州生まれのボルボにとってはまるで影響がなく、むしろ快適。単調な風景が続くなか、左手には南部富士とも呼ばれる岩手山が姿を現した。二つの火山が繋がって成立した岩手山だが、まだその活動は続いているという。

岩手山から連なる奥羽山脈を横目に見ながら、安代ジャンクションで八戸自動車道へ乗り換える。道は太平洋に向かって山あいを抜けていくワインディングで、とても楽しい。まず二戸(にのへ)が現れる。続いて一戸(いちのへ)。青森はいったい何戸まであるのだろう? なんてことを考えながら走っていたら、急に視界が開け八戸市に到着した。

我々が目指す「みなと食堂」は八戸線陸奥湊駅のそばということで、八戸の市内を抜けていく。営業時間は朝6時から午後3時までという朝型のお店。時計を見れば、もう午後2時になるところ。可及的速やかに到着してヒラメ漬け丼にありつかなければ!

ちなみに八戸線は、青森県八戸駅から岩手県久慈駅を結ぶ、三陸海岸の風景を楽しめる営業距離64.9kmの路線。鉄分多めのロケ地マニアであるT編集長ならば、ヒラメ漬け丼を食べたあとに、八戸線に乗って朝の連ドラ『あまちゃん』の舞台である久慈へと向かうだろう。そんなルートもアリだが、我々は青森港17時05分発の函館行きフェリーに乗らなければならない。というわけで、みなと食堂に滞在できる時間はわずか20分程度。大急ぎでヒラメ漬け丼とせんべい汁セット(1350円・税込み)を掻き込んだ。

ボルボ V90クロスカントリー

ここでちょっとだけ食レポしようと思う。ヒラメ漬け丼は、タレに漬け込むことでうま味と艶の増したヒラメの切り身がギッシリと並び、中央にはぷっくりとした卵黄が載せられている。「下のほうにタレが溜まっているから、よく混ぜて食べてね」という店員さんのアドバイスに従って、美しく並ぶヒラメの切り身を崩すのはもったいないけれど、ワシワシと混ぜてから口へ。ヒラメの甘さとねっとりとした舌ざわりがなんとも絶妙。アクセントにワサビを添えてあり、甘さのなかにちょっとピリッとした感覚もあり、至福この上ない。

いっぽうのせんべい汁はというと、シンプルで素材の味が前面に出ており、野菜の滋味が広がる感じ。ふやけた南部せんべいの触感も楽しい。これまた至福。時間がないということもあったが、あっという間に完食してしまった。ああ、仙台の牛タンをパスしてまで来た甲斐があった。

壁には、4種の素材を使った四合せ丼(しあわせ丼)や、平目えんがわ半々漬け丼、いちご煮(ウニの吸い物)などなど、気になるメニューがずらり。でも時間が…。また何らかの理由をつけて必ず再訪しようと誓い、後ろ髪を引かれながらみなと食堂を後にした。

ボルボ V90クロスカントリー
ボルボ V90クロスカントリー
ボルボ V90クロスカントリー

たかが40km。と行き当たりばったりが裏目に出た遠回り

さあ残る行程は青森港までの約90km。ここで行き当たりばったりの性格が裏目に出る。1時間ちょいで着くでしょうと高を括っていたら、頼みの自動車道は途中で途切れており、一般道を山越えするというルート。仙台の牛タン店の開店時間に続いて、下調べしていないことが露呈した。

それでも間に合わないわけにはいかないので、道を急ぐ。日ざしはかなり傾いて、V90クロスカントリーの影が長く長く伸びているのを見て、改めて緯度の高さを感じる。生まれ故郷のスウェーデンでも、こんな絵柄になるのだろうな。当初の計画では、「十和田湖あたりで撮影できたら」なんて思っていたが、そんな時間は微塵もなく、なんとか16時過ぎに青森港へとのフェリーターミナルへと滑り込んだ。

ボルボ V90クロスカントリー
ボルボ V90クロスカントリー

事前にボルボのスタッフがチェックインを済ませてくれていたお陰もあって、無事にV90クロスカントリーと我々取材班は、他のメディアチームと一緒に津軽海峡フェリー「ブルードルフィン2」号の車両甲板へ。さすがに800km以上ひとりでステアリングを握り続けたことと、船の出発に間に合ったことへの安堵感で、船室ではうつらうつら。冬の津軽海峡ではあるが、とくに揺れを感じることもなく、3時間40分の船旅はほぼ寝落ち。そしてすっかり闇に包まれた函館港へと到着した。

ボルボ V90クロスカントリー

しかし、このまますんなりと宿に行ってはつまらない。函館=夜景という安直な考えが浮かんだが、おっさん二人でロープウェイに乗るほど野暮ではなく、函館港から望む夜景でお茶を濁すことに。しかしいざクルマを停めてみると、海面に照り返す夜景の中に特長的なテールランプが浮かび上がり、これはこれで絵になるではないか。ということで、満足した取材班は市内の宿へ。半日以上走り続けた1日目はこれにて終了。お世辞抜きで疲労感は少なく、ボルボV90クロスカントリーのもつ長距離ドライブの実力を実感したのだった。

後編に続く

[Text:オートックワン編集部/Photo:佐藤正巳,茂呂幸正]

ボルボ V90クロスカントリー

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